余暇に軽い身体活動が多いほど健診結果が良好  -活動量の実測データに基づく世界初の知見-

公益財団法人 明治安田厚生事業団のプレスリリース

【ポイント】
●オフィスワーカーでは仕事中ではなく、余暇(平日の仕事前後の時間)に体を動かすことが良好な健診結果※1と関連することがわかりました。
●その際、運動のような高強度の活動よりも、低強度の身体活動※2が多いことの方が良好な健診結果と強く関連することがわかりました。
●具体的には、統計学的予測※3により、余暇の座位行動を30分減らして、低強度の身体活動に充てることで総合的な健診結果※4が13%程度改善すると試算されました。

研究成果のイメージ

【概要】
公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所(本部:東京都新宿区、理事長:中熊 一仁)が行う明治安田ライフスタイル研究(Meiji Yasuda Lifestyle Study:MYLSスタディ(R)※5)では、オフィスワーカーの1日の座っている時間(座位行動)、体を動かしている時間(身体活動)を活動量計※6で実測し、健診結果との関連性を検討しました。その結果、仕事中ではなく、余暇(平日の仕事前後の時間)の身体活動が多いことや座位時間が少ないことが良好な健診結果と関連することがわかりました。また、意外なことに良好な健診結果と強く関連したのは運動のような高強度の身体活動ではなく、ゆっくり歩行や家事などの低強度の身体活動でした。健診結果を良好に保ちメタボや心血管疾患などを予防するためには、余暇での座っている時間(例:TV視聴やスマホ利用など)を見直し、低強度でも良いので、たくさん体を動かすことが大切と伺われます。

本研究の成果は、スポーツ科学分野の国際学術雑誌Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sportsに2022年4月27日付で公開されました。

※MYLSスタディは、公益財団法人 明治安田厚生事業団の登録商標です。

【背景】
心血管疾患や糖尿病などの病気は世界的に死亡や障害の主要な要因であり、その対策のためにも定期健診で測定する腹囲や血圧などの値を適切に管理することが重要です。身体的に活発なライフスタイルはこうした健診結果を良好に保つために重要ですが、近年、「活動の場面(仕事・余暇)によって、健診結果への影響が異なる可能性があること」がわかってきました。一方で、1日は24時間と決まっているため、ある行動(例:運動)を増やすには、別の行動(例:TV視聴や睡眠)の時間を同じだけ減らす必要があります。しかし、従来の研究では、こうした1日の行動時間の特性(相互依存性)が十分に考慮されておらず、現代社会のメジャーな職種であるオフィスワーカーを対象にした研究もありませんでした。そのため、オフィスワーカーが健診結果を良好に保つには、「どのような場面のどれくらいの強度の活動を増やす(減らす)必要があるのか」がわかっていません。そこで、本研究ではこうした依存関係を統計手法で適切に対処したうえで、オフィスワーカーを対象に、活動の場面別に座位行動や身体活動と健診結果の関連性を調べました。

【対象と方法】
本研究は2017-19年にMYLSスタディに参加したオフィスワーカー1,258名を対象とした横断研究です。対象者は腰に活動量計を装着し、普段の身体活動量や座位行動時間を測定しました。その際、対象者が勤める会社の就業規則を基に、平日の9-17時を仕事中、平日のそれ以外の時間を余暇、土曜・日曜・祝日を非仕事日と判定し、それぞれの活動場面別に健診結果との関連性を検討しました。健診の指標には、腹囲、拡張期・収縮期血圧、空腹時血糖、HDL-c、中性脂肪を用いました。組成データ解析と呼ばれる統計手法により、1日の行動時間が持つ相互依存性を考慮し、年齢、性、教育年数、暮らし向き、配偶者の有無、喫煙・飲酒習慣、緑黄色野菜の摂取頻度、残業時間、高血圧・糖尿病・脂質代謝異常症に関する服薬の有無、睡眠時間の影響を統計学的に調整しました。

【結果】
分析の結果、良好な健診結果と明確に関連したのは仕事中の活動ではなく、平日の余暇の身体活動時間が長いことや座位時間が短いことでした。特に、総合的な健診結果と強く関連したのは、運動のような高強度の身体活動ではなく、ゆっくり歩行や家事といった低強度の身体活動でした(グラフ(1))。具体的には、統計学的予測により、余暇の座位行動を30分減らして、低強度の身体活動に充てることで総合的な健診結果が13%程度改善すると試算されました(グラフ(2))。従来推奨されてきた中高強度の身体活動は主に脂質代謝の指標と良好に関連することがわかりました。なお、休日の活動と健診結果の関連性は不明瞭でした。

グラフ(1):場面別の活動と健診結果の関連性

グラフ(2):余暇の座位行動を減らして、低強度の身体活動を増やした時の予想される健診結果の変化

【まとめ】
本研究では、世界で初めて“行動の相互依存性”を考慮したうえで、オフィスワーカーの活動場面別に身体活動や座位行動と健診結果の関連性を調べました。そして、オフィスワーカーの健診結果の管理には仕事中ではなく、余暇の座位時間を減らして、低強度であってもたくさん体を動かすのが大切であることを確認しました。なお、本研究では、身体活動や座位行動と健診結果の因果関係は明らかではありません。統計学的予測の結果も、個人が行動変容した際に同じ結果が得られるとは限らないことに注意が必要です。また、対象者が首都圏のオフィスワーカーであり、通勤などによる活動量が多い集団でした。得られた結果が活動量の少ない人や他の職種の人に当てはまるかについては、更なる検討が必要です。

【発表論文】
掲載誌   : Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports
論文タイトル: Association of domain-specific physical activity and sedentary behavior with cardiometabolic health among office workers
著者    : Naruki Kitano, Yuko Kai, Takashi Jindo, Yuya Fujii, Kenji Tsunoda, Takashi Arao
DOI番号   : https://doi.org/10.1111/sms.14165

【用語解説】
1. 健診結果:定期健診で測定する腹囲、血圧、血中の空腹時血糖・HDL-c・中性脂肪の値のことを指します。
2. 低強度の身体活動:1.6-2.9METsまでの強度の身体活動。ゆっくり歩行や家事などが含まれます。
3. 統計学的な予測:対象集団の平均座位行動時間を30分減らして、低強度の身体活動時間を30分増やした場合に、健診結果がどのように変化するかを予測しています。よって、この結果を個人に当てはめることはできません。
4. 総合的な健診結果:腹囲、血圧、血中の空腹時血糖・HDL-c・中性脂肪の結果を一つにまとめた指標。心血管疾患などのリスクの程度を反映する、総合的な指標。
5. 明治安田ライフスタイル研究:明治安田新宿健診センターを拠点として、運動や座りすぎを中心とした生活習慣が健康にあたえる影響の解明を目的に行なわれるコホート研究。
6. 活動量計:3軸加速度計センサーを搭載し、日々の身体活動や座位行動を詳細に評価することができる機器。

【利益相反】
著者には開示すべき利益相反はありません。

【財源情報】
本研究はJSPS科研費(JP17K13238、 JP18K17930、JP19K11569)の助成を受けて行なわれました。記して深謝します。

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