資生堂クリエイティブ株式会社のプレスリリース
瀬戸内国際芸術祭は、瀬戸内海の12の島と2つの港周辺を舞台に開催される現代アートの祭典です。2022年は4月14日に開幕し、島のおじいちゃん、おばあちゃんを笑顔にすることを目的として開催されています。島の伝統文化や豊かな自然を活かしたアート作品を通じて、島の人々と訪れる人の交流を生み、住民を笑顔にすることで、地域の活力を取り戻す取り組みです。
資生堂クリエイティブはそんな瀬戸内国際芸術祭の理念に共感し、今年度から協賛を始めました。また、ただ協賛を行うだけではなく、社会課題を美の体験価値として解決していくという強みを活かし、自社のクリエイターを開催地である瀬戸内の島へ派遣し、クリエイティブの力をもって「瀬戸内の島々の未来」を考える自主提案を行うためのワークショップを実施しました。
【ワークショッププログラム】
実施期間:2022年10月3日(月)~10月5日(水)
■DAY1【拓く】:ベネッセアートサイト直島での研修プログラム
ベネッセアートサイト直島(以下、BASN)で様々なテーマに応じた体験型の研修プログラムを提供する「BASN Learning & Practice」の下、作品鑑賞を通じて表現力や共感力、批判的思考力や想像力などを養う独自の対話型鑑賞プログラムなどを体験
■DAY2【知る】:島々の現在を知るセッション
瀬戸内国際芸術祭の会場の1つとなっている男木島・女木島の作品鑑賞および男木島に移住したご夫婦との対話を通し、島の現在を知るセッションを実施
■DAY3【考える】:島々の未来を考えるアイディエーション
DAY1での気づき、DAY2での学びを踏まえ、事前に立てた仮説の検証やブラッシュアップ、課題解決・価値創造に向けた議論とアイディエーションを実施
【参加したクリエイターの感想】
宮澤 ゆきの(コピーライター)
今回の3日間のワークショップを通じて、私たちは普段の生活の中で、無意識に正解を探していることが多いことに気づきました。けれど、一人ひとりちがう感じ方は、すべてが価値。難しく考えずに自分との対話を大事にしていいのだと、背中を押してもらえた気がします。
島民の方のお話では、「瀬戸内国際芸術祭は、文化のインフラ」という言葉が印象的でした。島に点在するアート作品は、存在感を放ちながらも、景色や暮らしに自然に溶け込んでいるものばかり。島の文化を大切にしながら、生活の一部としてアートが存在している豊かさと、その環境を維持していくことの重要性を感じました。
また、事前に行っていたリサーチでは、観光・暮らし・環境などの側面から、瀬戸内の今の課題に着目していました。しかし実際には、長期的に向き合うべき課題も。たとえば、芸術祭をきっかけに移住希望者が増えている島もある一方、依然として高齢化は深刻だと言います。「10年後はさらに人が減ることを前提に考えている」という福井さんのお話から、離島復興のために教育に力を入れるなど、長い目で島の未来を考える必要性に気づきました。今回のワークショップでのさまざまな体験を振り返りながら、瀬戸内の島々の未来へ向けた提案のためのアイディエーションを進めています。思い描いているゴールは芸術祭と同じく、島のおじいちゃん・おばあちゃんの笑顔を増やすこと。すばらしい島の魅力と、私たちの強みである体験デザインのアプローチを掛け合わせて、島の日常に寄り添った提案ができたらと考えています。
【ワークショップハイライト】
DAY1【拓く】:ベネッセアートサイト直島での研修プログラム
対話型鑑賞では、「この作品は何に見えますか?」「どう感じますか?」というガイドの問いかけに、初めのうちクリエイターたちは言葉が出なかった様子。対話を重ねるうちに、感じたことを素直に話せるようになり対話が生まれ始めました。また参加したメンバーそれぞれのコメントもユニークで、お互いの視点の違いや新しい発見があったという声もあがりました。
DAY2【知る】:島々の現在を知るセッション~男木島に移住したご夫婦との対話~
島の課題解決をおこなった実例を直接学ぶため、男木島にて、移住者である島民のご夫婦とクリエイターで対話の機会を持ちました。
■マネタイズではなく、長期的な目線で、その施策がどう島に影響していくのかを考える
ご夫妻は私設図書館を作るプロジェクトを立ち上げ、当初子供や地域のためにと考えていたものでしたが、今ではコーヒーを売ったり、コワーキングスペースを作り運用しているそう。地域の課題解決へ向けた施策を考えるときは、ただ単にお金がもうかるから作るのではなくて、何故それに取り組むのか、取り組んだ結果どんな影響を島に及ぼしたいのかが重要だと語ってくれました。そうした取り組みが、今の男木島が周囲の島と比較して若い移住者も増えている現状に繋がっているようです。
■瀬戸内国際芸術祭の影響で、島に立ち寄る人も住む人も増えて、島のおじいちゃんおばあちゃんの自己肯定感もあがり、福祉も充実するようになった
もともと男木島は島外の人が訪れることはめったになく、瀬戸内国際芸術祭が始まり、観光客と島民の間でコミュニケーションが生まれるようになりました。あるアーティストの方が、おんばと呼ばれる島民が使っている手押し車にデコレーションを施すというプロジェクトを行っていて、そのおんばを島民が使用していると観光客に声をかけられるようになったり、自己肯定感が上がるきっかけになりました。観光客が来てくれると嬉しい、という気持ちは、今回の瀬戸内国際芸術祭のビジュアルポスターに大々的におじいちゃん・おばあちゃんが協力してくれているように、多くの人が持っている、とご夫婦は語ります。また、島が活性化することで、福祉系の仕事をする人が島に移住して、生活が便利になったことも島民の方には嬉しいポイントだったようです。
■瀬戸内国際芸術祭は国や県へのプレゼン大会。島の文化を継承する「文化のインフラ」となっている。
男木島の人口の1/3はすでに移住者が占めており、その割合は今も増加しています。島に継承されている文化的な豊かさという魅力は移住者にとっても重要で、文化・歴史の継承は課題となっているそうです。
その中で、瀬戸内国際芸術祭は文化を継承していく「文化のインフラ」の役割を担っています。例えば、「島の記憶、記録を残して欲しい」という島民からの希望から、サマースクールを実施したり、さらにこうした活動を国や市に瀬戸内国際芸術祭を通してプレゼンすることで、継続的な活動に繋げていくといった循環を生んでいるといいます。
またご夫妻は、人が減ることを前提に、島の垣根を超える交流、ネットワークを作っていくことも今後の課題として挙げていました。昔は漁業が盛んで、島間の文化的な交流もあったそうですが、航路の交通網が発達したことで逆に文化的な交流は分断されてしまいました。現在では島間交流を積極的に行い、芸術祭に対する互いの姿勢を共有しています。自分たちで完結するのではなく、いろんな人を巻き込んで経験してもらうことが瀬戸内の島々の未来を考えていくうえで重要だと語っていました。
今回のワークショップでの経験を踏まえ、参加クリエイターによる瀬戸内の島々の未来へ向けた提案は11月下旬に予定しています。提案の内容は、その後実現へ向けて取り組んでいく予定です。