株式会社コーセーのプレスリリース
今回開発したのは、動画から個人ごとの表情特徴を分類することができる表情分析技術です。これは統計数理研究所の持橋大地 准教授との共同研究によるものであり、研究成果の一部は2022年6月に琉球大学で開催された第138回MPS研究会(※1)にて発表し、ベストプレゼンテーション賞を受賞しました。
(※1)一般社団法人 情報処理学会の中の研究会のひとつで、数理モデル化と問題解決にまつわる研究を取り扱う
図1 動画からの表情分析技術の開発と応用例
表情分析技術 Part 1 : 動きのある表情を反映した表情変化特徴量の設計
近年ではSNSやビデオ会議の普及により動画を目にする機会も劇的に増えました。動画の中では人の様々な表情が積み重ねられ、個人の雰囲気や印象を左右する大切な要素の一つとなっています。しかし、これまでの表情解析技術は、表情の移り変わりが分からない静止画を分析するものや、予め「笑顔」などのラベルが決められた表情を当てはめて解析する技術がほとんどでした。そこで、私たちは本当の表情を解析するため、予め決められた分類ラベルを用いずに動画中の全ての表情を特定・分類することを試みました。
始めに、今回の表情分析を行うための情報の単位となる表情変化特徴量の設計を行いました。データセットとしては、当社のビューティーコンサルタント同士のオンラインカウンセリングの研修用動画を5分間にトリミングしたものを用いました。この動画から、表情のある部分の顔の特徴点の変化量を計算することで、3分の1秒間におこる表情微分、即ち時間的な表情変化の特徴量を算出しました。この表情変化特徴量は、静画にはない表情の微小な時間変化を反映することができるうえ、顔の造形や性別、年齢などの影響を受けにくく、表情だけを抽出することが可能です。
図2 表情変化特徴量の設計
表情分析技術 Part 2 : 類似する表情を特定し、分類するためのクラスタリング手法の開発
抽出した表情変化特徴量は膨大なデータです。例えば、たった一人の5分間の動画から、約900枚の表情変化特徴量が得られます。そこで、この中から、類似する表情を見つけ出してグループ化するための2段階のクラスタリング手法を開発しました。1段階目は表情強度による分類であり、いわば表情変化の大きさに対応した分類です。2段階目は表情強度ごとに類似する表情変化特徴量をクラスターとしてグループ化していく工程です。例えば、強表情のクラスターの中には、満面の笑みのようなダイナミックな表情変化が含まれます。この方法により、人が認識できないようなわずかな表情変化をデータから特定し、分類することが出来るようになりました。
図3 表情強度ごとに表情パターンを分類するクラスタリング手法
表情分析技術の応用事例 : 個人に特有の個性ある表情が明らかに
開発した表情分析技術を用いて、8人の動画を対象として表情分析実験を実施しました。8人の表情パターンを比較することで、特定の個人だけに見られる表情と、8人全員に共通してみられる表情を抽出することができました(図1)。この結果は、それぞれがもつ特有の個性ある表情とその個人が持つ魅力の関係性を紐解くための全く新しい切り口になることが期待できます。
- 今後の展望
本研究により、一人ひとりの表情特徴を動画から明らかにすることが出来ました。表情は人が持つ固有の魅力の一つであると同時に、世界共通のコミュニケーションツールの一つです。
今後は、表情解析技術を応用することで全てのお客さまへのコミュニケーションの支援や、お客さま自身も気づいていない表情の魅力を解明し、一人ひとりの魅力を引き出す美容提案の開発に取り組んでいきます。