株式会社ナリス化粧品のプレスリリース
■研究の背景
当社は、1937年に肌の老化角質を取り除くことで、肌のターンオーバーを促す「ふきとり化粧水」を発売以降、86年にわたり角層研究を追求しています。これまでの角層研究における細胞形状の自動解析では、重複した細胞の輪郭を正確に見分けることが困難であったため、AI解析技術を確立し角層細胞の形状について、未知の実態把握を行うべく研究を開始しました。
■研究内容
まずは2年以上をかけて、2万個以上の角層細胞形状をAIに学習させることで、重複した角層細胞の形状を大量かつ正確に把握するシステムを構築しました。そのAIを使用して、20代~60代(n=79)の半顔の角層を、オリジナルの角層テープで採取して154区画に分けて解析を行い、平均値を出すと、角層細胞の面積については、顔の中心部が小さく外側の方が大きい傾向がありました。円形度については額部分が正円に近く、顔の下半分でひしゃげている傾向がありました。角層細胞の重複率(細胞面積に対する覆い被さっている細胞の面積)では、額からあごにかけて顔の中心部分で高く、頬からえらの部位で低いことがわかりました。さらに加齢変化に着目してみると、高齢者の角層細胞は重複率が高く若齢者は低いこと、またそれぞれの形状の要素を総合した場合に、高齢者と若齢者による差が大きいのは目もとや頬の下部など、たるみやシワが起こり易い部位であったため、真皮の状態の関与も示唆されました。これらの発見を基に、角層細胞の重複にフォーカスして研究を進めました。
角層細胞が重複した部分は、細胞同士がDSG1などのたんぱく質で結合しており、これが分解酵素によって分解されることでターンオーバーが生じることがわかっているため、角層細胞の重複率と剥離性に因果関係があると考え研究を行った結果、重複率が低いと角層剥離がスムーズであることに比べ、重複率が高いとDSG1の分解が阻害され、角層剥離が起こりづらくなることがわかりました。この結果から、高齢者の角層は重複率が高いため、ターンオーバーしづらいことが判明しました。
■発表タイトル: Differences in stratum corneum organization with detailed locations and agerevealed by artificial intelligence-aided half-face mapping of cell-to-cell position and cell shape
和文: AIを用いた角層細胞の相対位置と形状の半顔マッピングで明らかになった部位や年齢による角層細胞の差異
■発表者:株式会社ナリス化粧品 髙田広之・森田美穂・佐藤健成
研究者プロフィール
髙田 広之(たかだ ひろゆき)
株式会社ナリス化粧品
研究開発部 研究開発課 基盤技術研究グループ
― 略歴 ―
2016年4月 株式会社ナリス化粧品に入社。
― 職務経歴 ―
2016年10月 ナリス化粧品 処方応用グループ。
(メーク製品を中心に様々なカテゴリーの化粧品開発に従事)
2017年10月 ナリス化粧品基盤技術グループ。
(美白や保湿などの研究に従事)
2020年10月 IFSCC congress 2020にて肌のニトロ化について発表。
※今回の学会発表は、入社8年目にして2回目です。
【研究者のコメント】
1000を超える角層の外形図をひとつひとつ地道に描き出すところからこの研究が始まりまししたが、AI解析システムの構築によって、今まではできなかった分析が可能となったことは、長く角層研究を続けてきた当社にとって大きな成果です。角層のターンオーバーは、肌を健康に保つ根本であるため研究が行われてきた対象ですが、今回のシステムによって新たな知見を得ることができました。また、この研究で報告した角層細胞の重複だけでなく、まだまだ未知の研究の切り口が潜んでいることもわかってきています。それらを探求することで、美肌に繋がるスキンケアの研究を続けます。