下水を用いる感染症対策の経済価値

早稲田大学のプレスリリース

下水を用いる感染症対策の経済価値大規模アンケート調査による支払い意思額 ―

 
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
 

【発表のポイント】 ◆ 将来の大規模感染症の予防政策について、正当化できる財源の金額を推定するため、日本国内の公共政策の財源を負担する一般住民を対象とした大規模アンケート調査を実施した。この調査は、経済学の評価手法を用い、特定の政策に対して「支払っても構わない金額(支払い意思額(Willingness-to-pay)」を質問した。 ◆ アンケート調査の結果、全国の主要都市において下水サーベイランス(下水中に存在するヒト由来のウイルスを検査・監視すること)を開始・維持する政策に対する年間支払い意思額(WTP)は、1世帯あたり平均値で2,100円(中央値800円)であった。 ◆ 日本の全世帯のWTP(年間450億円)は、「全国規模の下水サーベイランス」を開始・維持するための費用(年間30億円)をはるかに上回ったため、公共政策として「全国規模の下水サーベイランス」の整備は経済的に正当化されたと言えます。

将来の大規模感染症による被害の金額を事前に予測することは不可能ですが、その予防策の財源の「上限額」をどのように設定するかは、公共政策上の大きな課題です。早稲田大学人間科学学術院および神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科のユウ ヘイキョウ教授らの研究グループは、東京大学大学院工学系研究科の北島正章特任教授らと共同で、大規模なアンケート調査の結果を分析し、日本全国の主要都市において実施する下水サーベイランス(下水中に存在するヒト由来のウイルスを検査・監視すること)制度に対する住民の「支払い意思額(Willingness-to-pay (WTP))」を推定しました。この制度は、COVID-19やインフルエンザを含むさまざまな感染症の予防に有効であり、社会的なインフラとして、日本国内で整備されることが期待されます。

本研究成果は、英国Royal Society of Chemistryが出版する『Environmental Science: Water Research & Technology』(論文名:Willingness to pay for nationwide wastewater surveillance system for infectious diseases in Japan(和訳:感染症対策である全国規模の下水サーベイランス制度への支払い意思額))にて、2024年6月20日(木曜日)にオンラインで最終版が掲載されました。
 
■研究の波及効果や社会的影響
本研究の結果は、日本の世帯の多くが、年間800円の追加課税で、本研究で提案した「全国規模の下水サーベイランス」の実施を支持していると示唆しています。ただし、追加課税をする場合は、累進課税を実施することが望ましいと考えられます。なぜなら、WTPをゼロと回答した(アンケート調査全体の約3%)傾向が高かった低所得世帯にとっては免税対象となるからです。年間450億円のWTPの総額は、下水処理場での下水サーベイランス(30億円)だけでなく、国際空港での下水サーベイランスの導入など、広範囲な対象をカバーできる可能性があります。下水サーベイランス制度に対するWTPを推定した先行研究はこれまでに無かったため、本研究の結果は、日本のみならず諸外国の下水サーベイランス制度に関与する政治家・公衆衛生専門家間の議論に有用な示唆をもたらすものと期待されます。
 
■今後の課題
医療経済学の目標は、限られた資源の配分を変えることで、社会全体の健康状態の改善を最大化することです。本研究の結果は、下水サーベイランスに対する(金銭的・人的)資源配分を、これまでより厚くする政策変更を支持するものです。今後、日本の中央政府による政策変更が進まない場合でも、下水サーベイランスを実施する自治体が増えることも期待されます。地方自治体政府は、本研究の結果(1世帯あたり平均WTPは2,100円;中央値は800円)を財政支出の根拠として用いることで、政策変更を進めることが可能です。
 
■研究者のコメント
大規模感染症に対する下水サーベイランスの実施規模において、日本は欧米先進諸国に大きく遅れていますが、下水サーベイランスに関する日本の技術は世界でも最高レベルです。本研究が契機となって、日本でも全国規模の下水サーベイランス制度が、社会的なインフラ(社会資本)として継続的に維持され、国際標準に追いつくことを期待しています。
 
■論文情報
雑誌名:Environmental Science: Water Research & Technology
論文名:Willingness to pay for nationwide wastewater surveillance system for infectious diseases in Japan
執筆者名(所属機関名):ユウ ヘイキョウ(早稲田大学/神奈川県立保健福祉大学)*責任著者後藤 励(慶應義塾大学)、佐々木 朋子(独立研究者)北島 正章(東京大学)、Sebastian Himmler(ミュンヘン工科大学)
掲載日時(BTS):2024年6月20日(木)午前9時30分
掲載日時(JST):2024年6月20日(木)午後5時30分
掲載URL:https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2024/EW/D4EW00332B
DOI:https://doi.org/10.1039/D4EW00332B
 
■研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
研究費名:神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センターの内部研究費
研究課題名:新型コロナウイルス・パンデミックの公衆衛生対策
研究代表者名(所属機関名):Byung-Kwang Yoo (早稲田大学/神奈川県立保健福祉大学)

Follow Twitter Facebook Feedly
SHARE
このページのURLとタイトルをコピー
お使いの端末ではこの機能に対応していません。
下のテキストボックスからコピーしてください。