「酵母細胞壁」と「有胞子性乳酸菌 (生きて腸まで届く乳酸菌)」の組み合わせで、腸内環境を改善する効果を確認

日本食品科学工学会 第71回大会(2024年8月29日~31日)にて発表

アサヒグループ食品株式会社のプレスリリース

 アサヒグループ食品株式会社(社長:川原浩 本社:東京都墨田区)と三菱ケミカル株式会社(代表取締役:下平 靖雄、福田 信夫 本社:東京都千代田区)は、「パン酵母由来の酵母細胞壁」と「有胞子性乳酸菌Weizmannia coagulans SANK 70258」の組み合わせに関して、腸内環境を改善する効果(シンバイオティクス効果)を確認しました。この研究成果について、日本食品科学工学会 第71回大会(愛知県名古屋市)(2024年8月29日~31日)にて発表を行いました。本研究については今後も詳細なメカニズムの解明を進めるとともに、引き続き、酵母由来成分のヒトに対する健康維持についての研究を進める予定です。

<以下詳細内容> 注釈の用語解説は最後にまとめて記載しています。

■研究背景

 アサヒグループ食品では酵母エキス製造過程で得られる副産物である「パン酵母由来の酵母細胞壁(以下、酵母細胞壁)」の有効活用に向け、様々な機能性研究を行っています。酵母細胞壁にはグルカンやマンナンなどの食物繊維が含まれ、食物繊維は大腸に到達すると、腸内細菌によって利用されこれらの菌を増やすことが報告されています。中でも一部の腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸※1は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが示唆されています。アサヒグループ食品が行った研究にて、酵母細胞壁は、in vitro ヒト糞便培養系試験において短鎖脂肪酸の産生を有意に増強したことから、プレバイオティクス※2素材として機能することが示唆されています。(2024年5月日本栄養・食糧学会大会にて発表済)

 また、「有胞子性乳酸菌Weizmannia coagulans SANK 70258(以下W. coagulans SANK 70258、旧名: Bacillus coagulans))」は、三菱ケミカルが開発した乳酸菌で、一般的な乳酸菌とは異なり胞子を形成するため、耐熱性、耐酸性、耐糖性に優れ、胃酸で死滅せず、生きたまま腸まで届くことが報告されています。これまで、W. coagulans SANK 70258には、免疫機能の調節(1)、肌の状態の改善(2)などの機能を有する可能性が示唆されています。また、ビフィズス菌の増加や腸内腐敗産物の低減、排便回数の増加についても報告されており (3, 4, 5)、プロバイオティクス※3素材として機能することが示唆されています。

 

 本研究では、プレバイオティクス効果が示唆された酵母細胞壁とプロバイオティクス効果が示唆されたW. coagulans SANK 70258を対象とし、2素材の組み合わせによる相乗効果の有無を評価しました。

■研究方法 

 ヒト糞便を用いたin vitro 培養系システムで評価を行いました。具体的には、13 名の健常者から採取した便を培地に混合し、評価サンプルを添加して48時間の嫌気培養※4を実施しました。培養後、培養液からDNAおよび代謝物質の抽出を行い、腸内フローラ※5および短鎖脂肪酸の解析を実施しました。

■研究結果

酵母細胞壁単体の効果

酵母細胞壁を添加することにより、過去の研究と同様に、培養液中に含まれる短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の濃度が、非添加群と比較して有意に高い値を示すことが分かりました(図1)。なお、p<0.05は統計学的に有意な差があることを示します。

 また、腸内フローラを調べた結果、酵母細胞壁を添加することにより、多糖分解菌であるB. thetaiotaomicronおよび、酢酸産生菌であるB. faecis、酪酸産生菌であるFaecalibacteriumの存在比が有意に増加しました(図2)。

 図1, 2の結果より、酵母細胞壁は、①多糖分解菌B. thetaiotaomicronを増加させ、酵母細胞壁自身の食物繊維を分解し、②その食物繊維が酢酸産生菌B. faecisのエサとなり、酢酸産生を促します。さらに、酵母細胞壁により増加した酪酸産生菌Faecalibacteriumにより、酢酸が酪酸に変換され、酪酸産生が増加した、というメカニズムが推察されました(図3)。

酵母細胞壁とW. coagulans SANK 70258の組み合わせによる効果

 統計検定の結果、酵母細胞壁と同時にW. coagulans SANK 70258を添加すると、酪酸産生を強力に誘導することが明らかとなりました。(図4)。

 また、腸内フローラを調べた結果、酵母細胞壁のみを添加した群と比較して、多糖分解菌であるB. thetaiotaomicronおよび酪酸産生菌であるFaecalibacteriumの存在比が有意に増加しました(図5)。

 図4, 5 の結果より、酵母細胞壁とW. coagulans SANK 70258の組み合わせにより、それぞれ単独で添加した時と比較して、酪酸の産生に関わる多糖分解菌B. thetaiotaomicronや酪酸産生菌Faecalibacteriumがさらに増加し、酪酸の産生をさらに増強することが分かりました。

   以上の結果から、酵母細胞壁とW. coagulans SANK 70258の組み合わせは、酪酸の産生メカニズムを介し、相乗的な効果(シンバイオティクス効果※6)をもたらす可能性が考えられました(図6)。

■今後の展望   

 今回実施したヒト糞便を用いたin vitro 培養系を用いた試験により、酵母細胞壁とW. coagulans SANK 70258の組み合わせは、酪酸産生の有意な増強によるシンバイオティクス効果をもたらすことが明らかとなりました。

 また、酵母細胞壁やW. coagulans SANK 70258により増加した短鎖脂肪酸は、腸内環境を良好にするだけでなく、様々な臓器においてヒトの健康維持に繋がることが報告されています(図7)。

 今後より詳細な機能性、作用機序の解明を目指します。

 ■参考文献

1. Aida, M. et al. Heyndrickxia coagulans strain SANK70258 suppresses symptoms of upper respiratory tract infection via immune modulation: a randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel-group, comparative study. Front. Immunol. 15, 1389920 (2024).

2. Togawa, N. et al. Improvement of skin condition and intestinal flora via Heyndrickxia coagulans SANK70258 intake: A placebo-controlled, randomized, double-blind, parallel-group comparative study. Nutrition 112533 (2024).

3. 飯野久和, 松本由果, 伊藤美香, 阿部忍 & 菅浦敏夫. 有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans)によるヒト腸内菌叢改善効果についての研究. Progress in Medicine 17, 3303–3308 (1997).

4. Ara, K. et al. Effect of spore-bearing lactic acid-forming bacteria ( Bacillus coagulans SANK 70258) administration on the intestinal environment, defecation frequency, fecal characteristics and dermal characteristics in humans and rats. Microb. Ecol. Health Dis. 14, 4–13 (2002).

5. Watanabe, Y. et al. Effects of intake of Bacillus coagulans SANK 70258,“ spore—forming lactic acid bacteria” on bowel movement in healthy Volunteers ―A randomized, double—blind, placebo—controlled, parallel—group study―. 薬理と治療 46, 1549–1558 (2018).

■用語解説

※1:短鎖脂肪酸

腸内細菌によって作られる有機酸のうち、炭素の数が6個以下のものを指す。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがある。腸内細菌が食物繊維を分解することで産生される。腸内を弱酸性環境にすることで、有害な菌の増殖抑制・蠕動運動促進・免疫反応の制御に関与すると考えられている。

※2: プレバイオティクス

消化管に常在する有用な細菌を増殖させたり、活性を変化させたりすること、または宿主に有益な影響を与えることにより、宿主の健康を改善する食品成分。

※3:プロバイオティクス

腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物。

※4:嫌気培養

酸素が存在しない環境で培養すること。今回の実験ではヒト大腸内の環境を再現する目的で使用した。

※5:腸内フローラ
ヒトや動物の腸内にいる多種多様な腸内細菌全体。腸内では腸管の表面がびっしりと腸内細菌で埋め尽くされており、植物が群生している叢(くさむら)に例えられることから、腸内フローラ(細菌叢)と呼ばれている。

※6:シンバイオティクス

プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたもの。この2つを組み合わせることにより、双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利に働くことを目指している。

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