大正製薬のプレスリリース
いよいよ年末年始の宴会シーズンに突入。今年がんばった自分を労って、思わずお酒を飲みすぎてしまう…という人も少なくないのでは?
2024年11月、大正製薬株式会社が「二日酔いの経験がある」人489人を対象に「取り入れている二日酔い対策」について調査したところ、多い順に「空腹で飲酒しない(事前に軽く食べるなど)」237人、「飲むペースをゆっくりにする」189人、「飲酒の前に真水をたくさん摂る/水を頻繁に飲む/チェイサーを用意する」171人、「睡眠をしっかり取る」と「ウコンやタウリン・しじみサプリなどを飲む」が同列で134人という順でした。
飲む前までは注意しているはずが、知らない間に二日酔い…そんな事態を回避するための、医学的に正しい対策とは?
麻酔科医で栄養管理のエキスパートである、谷口英喜先生に、医師も実際にやっている、効果的な二日酔い対策について伺います。
東京医療保健大学大学院医療保健学研究科客員教授 医学博士 谷口英喜先生
麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理のエキスパート。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。2024年5月に新刊『熱中症からいのちを守る』(評言社)が刊行。その他の著書『いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)など。
二日酔いのメカニズムとは?
二日酔いとは、アルコールの過剰摂取後に現れる頭痛や吐き気、倦怠感などの不快な症状のことですが、その主な原因はアルコールの分解過程で生じる有害物質「アセトアルデヒド」の蓄積、及びアルコールの利尿作用による体内の水・電解質の不足です。これらの要因が複合的に重なり、痛みやだるさといった二日酔いの状態が引き起こされます。
摂取したアルコールは主に肝臓で分解されますが、その際、大量の水と電解質が使われます。さらに、アルコールの利尿作用により飲酒後にトイレに行く回数が増え、体内の水とともにカリウムやナトリウムなどの電解質が排出されてしまいます。こうして起こる電解質の不足もアセトアルデヒドの排出を遅らせ、二日酔いの症状を悪化させてしまいます。
ちなみに、お酒の飲み過ぎによって起こす下痢によってアルコールやアセトアルデヒドが早く排出されると誤解している人もいるようですが、違います。この下痢は、アルコールの摂り過ぎや過食により腸粘膜が刺激を受け、腸の水分吸収機能が低下している状態で、飲み過ぎによる摂取水分過多の結果起こるもの。実はアルコールもアセトアルデヒドも、便からはほとんど排出されません。飲酒後の下痢は脱水につながり、余計にアセトアルデヒドの分解・排出を滞らせるだけなのを知っておきましょう。
アルコール摂取時に肝臓で起きていること
アルコールは、肝臓の中に存在するアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)という酵素により、有害なアセトアルデヒドに分解されます。さらに同じ酵素がアセトアルデヒドを酢酸に変え、酢酸は体内で最終的にエネルギーに利用されるか、水と二酸化炭素に分解されて無害な形で排出されます。このプロセスで発生する活性酸素種(ROS)が肝細胞に大きな負担をかけることが分かっています。
肝臓のアルコール分解には大量のエネルギーを消費するため、摂取後に体温が上がることもありますが、同時に肝臓での脂肪代謝が妨げられ、脂肪が蓄積しやすくなってしまうという弊害もあります。
お酒を飲むと太るのは、カロリーを摂ってしまうことのみならず、同時に脂肪代謝も低下してしまうことが一因です。
アセトアルデヒドの分解を促進する立役者が、タウリンという栄養素です。
タウリンは、魚介類に多く含まれるアミノ酸の一種で、肝臓の解毒作用を助けます。特に胆汁酸の分泌を促進し、アルコールの分解をサポート。また、肝細胞の再生を促進し、肝臓機能の回復も助けます。
10年以上毎日27 gエタノール(アルコール)を摂取している36~48歳の男性5人に、アルコール摂取1時間前・1時間後にタウリン(20 mg/kg 体重)を摂取させたところ、アルコール摂取1時間後には血中アルデヒド濃度が低下し、2時間後、4時間後に確認してもさらに低下していたことがわかっています。
(Res Commun Subs Abuse 1985; 6(4): 247-250.)
飲酒の前後には、魚介類などのタウリンを含む食品を積極的に摂取することで、二日酔いの軽減が期待できます。お酒のおつまみには、魚介類が非常におすすめです。
連日の宴会… 二日酔いからの復活を早める朝食や昼食は?
二日酔いを予防・軽減するためには、宴会シーズンの朝食や昼食においても、肝臓の働きをサポートすることを意識した適切な栄養素を意識したメニューを取り入れることがおすすめです。
●しじみ汁
栄養素:タウリン、オルニチン、ミネラル(亜鉛、鉄)、水分
効果:タウリンとオルニチンが肝臓の解毒を助け、しじみに含まれるミネラルが代謝をサポートします。
温かい汁物は、消化器を温め、塩分・水分補給にも最適。
●豆腐とネギの味噌汁
栄養素:豆腐のアミノ酸、ネギのビタミンK、ナトリウム
効果:豆腐のたんぱく質が細胞の修復を助け、味噌のナトリウムが脱水症状を緩和。温かいスープで胃腸を整えます。ビタミンKは血液の正常な凝固を助け、血流を適切に保つ役割、また抗炎症効果があり、飲酒後の血液循環の乱れを改善することで、頭痛などの二日酔い症状の回復を早めてくれます。
●鮭の塩焼きと白ご飯
栄養素:タウリン、オメガ3脂肪酸、たんぱく質、ビタミンD、炭水化物
効果:鮭のタウリンとたんぱく質が代謝を促進し、オメガ3が炎症を抑えます。胃に優しく、エネルギー補給に最適。ビタミンDにはアルコール摂取による体内の炎症を軽減し、二日酔いの不快感を緩和することが期待されます。
アルコール代謝では多くのエネルギーが消費されて血糖値が低下して頭痛や疲労感につながります。米で炭水化物を供給すると速やかに血糖値が回復し、症状を和らげてくれる可能性があります。
●卵かけご飯
栄養素:メチオニン、たんぱく質、炭水化物
効果:卵のメチオニンは肝臓内で強力な抗酸化物質であり、アセトアルデヒドの解毒をサポートするグルタチオンの生成を助けます。
●梅干しとおにぎり
栄養素:クエン酸、ナトリウム、炭水化物
効果:梅干しの塩分が身体の水分バランスを整えます。クエン酸は体内での代謝を促進して乳酸などの疲労物質の分解を助けるため、飲酒によるだるさや倦怠感を軽減してくれます。
●鶏ささみ入りのおかゆ
栄養素:たんぱく質、ビタミンB群、ナイアシン
効果:ささみのたんぱく質は消化しやすく、すばやく肝機能を助けてくれます。アルコールで胃腸の調子を崩した時は、白米よりおかゆにしたほうがスムーズな水分補給が可能になります。
● バナナとヨーグルト
栄養素:カリウム、乳酸菌、ビタミンB群
効果:バナナに含まれるカリウムがアルコールによる電解質の乱れを整え、乳酸菌が胃腸の負担を軽減。ビタミンB群が代謝を促進。
●トーストとアボカド
栄養素:アボカドのビタミンE、ビタミンB群、脂質、トーストの炭水化物
効果:アボカドに含まれるビタミンEの抗酸化作用が肝臓の回復を助けます。アボカドに含まれる脂質の多くは一価不飽和脂肪酸(オレイン酸)で、この脂質はゆっくりと消化・吸収されるため、飲酒で消耗した体に持続的にエネルギーを供給してくれます。トーストの炭水化物も効率のよいエネルギー源になります。
● フルーツジュース、スムージー(オレンジ、キウイ、ほうれん草)
栄養素:ビタミンC、葉酸、カリウム
効果:オレンジ、キウイのビタミンCの抗酸化作用が肝臓をサポート。キウイのカリウムが電解質バランスを整えます。ほうれん草に豊富に含まれる葉酸は、肝臓での解毒機能を間接的にサポートするビタミンB群の一種であり、アルコールの分解や排出を促進する酵素の働きを助ける可能性があります。食欲がない朝でも摂取しやすいですね。
●トマトジュース
栄養素:リコピン、ビタミンC、カリウム
効果:リコピンの抗酸化作用が肝臓を保護し、カリウムが電解質のバランスを整えます。飲みやすく忙しい朝にも便利です。
そのほかの二日酔いケアのポイント
飲酒の前後はアルコールの利尿作用による脱水を防ぐため、十分な水分を補給しましょう。いつも飲みすぎてしまうという人は、必ずチェイサーのお水を用意して、1杯お酒を飲んだらコップ1杯のお水を必ず飲む、を習慣化しましょう。スポーツドリンクや経口補水液を飲酒の前後に活用するのも効果的です。
宴会で栄養素を意識したおつまみをチョイスすることも重要です。
また、飲酒翌日はなるべく体を休め、肝臓のアルコール代謝をサポートする時間を確保してください。
肝臓が処理できるアルコールの量には限界があります。摂取量が多すぎると、酵素の働きが追いつかず、血中にアルコールやアセトアルデヒドが蓄積し、酔いが強くなるだけでなく、体に害を及ぼすリスクも高まります。また、長期間にわたり過剰にアルコールを摂取すると、肝臓に負担がかかり、脂肪肝や肝炎、肝硬変といった深刻な肝臓疾患に発展することもあります。
効果的な二日酔い対策を紹介しましたが、最も大切なことは、健康に配慮した、適度な飲酒を心がけるようにすることです。