―Food Science & Nutritionに掲載―
フジッコ株式会社のプレスリリース
フジッコ株式会社(本社:神戸市中央区/代表取締役社長執行役員:福井正一)は、睡眠の質に悩みを持つ方を対象とした臨床試験を実施し、黒大豆ポリフェノールの摂取により、睡眠の質(寝つきと起床時の眠気)と冷えが改善することを明らかにしました。
なお、本研究成果は、科学雑誌「Food Science & Nutrition」に2025年6月11日(水)に掲載されました。
■研究の背景
経済協力開発機構(OECD)が2021年に実施した調査1)によると、日本人の平均睡眠時間は世界33か国中で最下位であったことから、世界的に日本人は特に睡眠の質が悪いといえます。2022年に行われた日本の国民健康・栄養調査の報告2)によると、日本人の約70%の方が睡眠の質に何らかの悩みを感じており、平均睡眠時間は年々短くなっていることが分かりました(図1)。十分な睡眠をとることは、心身の健康の観点からも重要であり、日本政府が国民の健康の増進の総合的な推進を図るために定めた基本方針である「健康日本21(第三次)」3)にも盛り込まれています。また、睡眠不足は仕事のパフォーマンス低下と相関すると言われており4)、睡眠関連の問題による日本の経済損失は15兆円と試算されていることから5)、睡眠の質の改善は個人の健康問題にとどまらず、社会全体の課題であるといえます。
当社は、黒大豆種皮から抽出・精製した機能性素材である「クロノケア」を開発し、様々な機能性研究を行ってきました。「クロノケア」は黒大豆ポリフェノールを58%以上(主成分はエピカテキンと低分子プロシアニジン)含み、非常に高い抗酸化作用を有します。体内で酸化ストレスが蓄積すると、自律神経機能が乱れて疲労などの症状に繋がりますが、「クロノケア」は、酸化ストレスを低減して自律神経機能を整えることが確認されています6)。この作用により、「クロノケア」は「一過性の疲労感」や「日中の一時的な眠気」を軽減する機能があることを確認しており、これらの機能については既に機能性表示食品の届出が受理されています。
また、ヒトの体温と睡眠は関連があることが知られており、睡眠に先立ち、手足の皮膚温度が深部体温に対して相対的に上昇し、その大きさが眠気と相関を示すことが知られています7)。このような熱放散のための皮膚温度の上昇は、末梢血管の拡張による皮膚血流の上昇によって起きます8)。「クロノケア」は、血流改善作用や冷えの改善作用が報告されていることから、血管の拡張を促し、皮膚温度を上昇させることでスムーズな入眠を促し、睡眠の質を改善することが期待されます。そこで、睡眠の質に不満をもつ方を対象に、「クロノケア」の摂取が睡眠の質と皮膚の表面温度に与える影響を検証しました。
■研究内容
起床時の疲労感と睡眠の質に悩みのある健常者64名(30~65歳未満の男女)を、「クロノケア」100mg/日(黒大豆ポリフェノールとして58mg/日)を摂取する群、「クロノケア」を含まないプラセボを摂取する群の2群に分け、各試験食を12週間摂取するプラセボ対照並行群間比較試験を行いました。睡眠の質の評価には、OSA睡眠調査票MA版による起床時の自覚症状と脳波計による客観的指標を用いました。また、睡眠との関連性のある皮膚温度への影響を確認するため、冷水負荷前後の皮膚表面温度と血流の変化を測定しました。その結果、「クロノケア」の摂取により入眠までの時間が有意に短縮し、起床時の眠気が有意に高値を示す等、睡眠の質が改善されることが示されました(図2)。特に、起床時におけるOSA睡眠調査票の質問項目の中では、「集中力がある-集中力がない」、「解放感がある-ストレスを感じる」において改善が確認されました。さらに、性別や睡眠の質によるサブグループ解析により、女性に対しては睡眠時間を増加させる効果があること、睡眠の質が低い者に対して深い睡眠(N3総時間)の増加をもたらすことが示唆されました。また、摂取12週間後の冷水負荷において、皮膚表面温度の有意な上昇が確認されました(図3)。
冷水負荷後の手掌部表面温度の変化 15℃の冷水に手を1分間浸した後、サーモグラフィーを用いて掌部の皮膚表面温度を測定 平均値±標準偏差、* p<0.05(群間比較)
■まとめ
本研究の結果から、「クロノケア」は、血管の拡張を促し、皮膚温を上昇させることでスムーズな入眠を促し、起床時の眠気等の睡眠の質を改善することが示唆されました。日本人の約70%が睡眠の質に何らかの悩みを感じていることから、「クロノケア」は日本人の健康課題の解決に役立つことが期待されます。さらに、「クロノケア」は、睡眠の質の改善に加えて、一過性の疲労感や日中の一時的な眠気も軽減することから、仕事のパフォーマンスの改善を通して、労働生産性の改善等の日本社会全体の課題の解決にも役立つことが期待されます。
今後は、睡眠の質と冷えの改善について機能性表示食品の届出を行い、これまでの研究成果である「一過性の疲労感」や「日中の一時的な眠気」を軽減する機能性表示と併せて、自社のサプリメントへの活用の他、他社のサプリメント等への素材販売を進めていく予定です。
■引用文献
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OECD. 2021. Gender Data Portal: Time Use across the World.
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厚生労働省(2022). 令和4年国民健康・栄養調査報告
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厚生労働省(2023). 健康日本21 (第三次) 推進のための説明資料
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Okajima, I., Komada, Y., Ito, W., & Inoue, Y. (2021). Sleep debt and social jetlag associated with sleepiness, mood, and work performance among workers in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(6), 2908.
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Hafner, M., Stepanek, M., Taylor, J. J., Troxel, W. M., & Van Stolk, C. (2017). Why sleep matters the economic costs of insufficient sleep: a cross-country comparative analysis. Rand Health Quarterly, 6(4), 11
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Akagi, R., Maruo, T., Mori, N., Fukuda, M., & Suzuki, T. (2021). Effects of black soybean seed coat extract on attenuating fatigue sensation in healthy volunteers -a randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover comparison trial-. 薬理と治療, 49(6), 953-964.
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Kräuchi, K., Cajochen, C., Werth, E., & Wirz-Justice, A. (1999). Warm Feet Promote the Rapid Onset of Sleep. Nature 401, 36–37.
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Van Someren, Eus, J., W. (2006). Mechanisms and Functions of Coupling between Sleep and Temperature Rhythms. Progress in Brain Research 153, 309–324.
■論文の情報
タイトル:Effects of consumption of black soybean seed coat extract on sleep quality in healthy Japanese: A randomized, placebo-controlled, double-blind, parallel-group comparison study
著 者:Ryota Akagi, Toshinari Maruo, Tsuyoshi Takara, and Kentaro Maruyama
雑 誌 名:Food Science & Nutrition 2025, 13(6), e70156
<研究内容に関するお問い合わせ先>
担当者:イノベーションセンター 素材研究グループ 課長 丸尾 俊也
責任者:イノベーションセンター センター長 丸山 健太郎
TEL:078-303-5385
ホームページアドレス:https://www.fujicco.co.jp
<原料販売に関するお問い合わせ先>
担当者:イノベーションセンター 素材事業部 課長 平澤 素王
責任者:イノベーションセンター 素材事業部 部長 岸本 晃典
TEL:078-303-5925
ホームページアドレス:https://www.fujicco.co.jp/products/material/