~“肌内部の見えない水”を捉え、未来のスキンケア開発へ貢献 ~
第一三共ヘルスケア株式会社のプレスリリース
第一三共ヘルスケア株式会社(本社:東京都中央区、社長:内田高広、以下「第一三共ヘルスケア」)と御木本製薬株式会社(本社:三重県伊勢市、社長:田中利尚、以下「御木本製薬」)は、両社による共創研究の成果を、本年9月15日から18日にかけてフランス・カンヌで開催の「第35回 国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)世界大会」において発表しました。
水分は、健康的な肌を維持するために欠かせない要素です。これまで、保湿に関わる研究の多くは「結合水」に着目して進められてきました。結合水は、角層内部の天然保湿因子に結び付く水で、乾燥した環境下でも揮発しにくいのが特徴です。しかし、「結合水」と一括りにされる水分にはさまざまな結合状態が存在しており、従来の測定手法では、それぞれの状態を明確に識別・評価することが困難でした。そのため、どの水の状態が保湿において重要な役割を果たしているのかについては、十分に解明されていないのが現状です。
そこで本研究では、肌に与える影響を確認するために、保湿やキメ感、ハリ感などのスキンケア効果に重要と推察される「中間水」や「弱い結合水」に着目し、これらを分析するための解析手法の確立を目指しました。また、この手法を用いて、これらの水分量を増やすことができる成分の探索も行いました。
今回の研究成果を応用することで、化粧品原料のスクリーニングにおいて「中間水」や「弱い結合水」を増やす原料の組み合わせを見出すことが可能となり、肌を健やかに保つことができる革新的なスキンケア製品の開発が期待されます。
■ 試験方法と成果
本研究では、肌の保湿に深く関与する「中間水」および「弱い結合水」を解析するため、DSC法とラマン分光法を応用し、2つの新たなアプローチ手法を確立しました。
それぞれ独自の解析方法を用いることで、保湿剤として広く使用される成分が持つ「水を抱え込む力」、すなわち、特に適度な結合力を持つ「中間水」および「弱い結合水」を形成する能力を、より詳細に評価することが可能となります。さらに、複数の保湿成分を皮膚に塗布し、角層内での「中間水」および「弱い結合水」の増加への影響を確認しました。
(1)角層における水を評価するための新たな手法 —“超”低温DSCを用いた水の可視化 —
(御木本製薬による発表内容)
本研究では、従来の結合水評価に用いられるDSC法(示差走査熱量測定法)を改良し、超低温(-150℃)まで冷却して、化粧品成分の成分特徴を解析する手法を開発しました。その結果、これまで「結合水」と「自由水」の2つの分類であった水の状態評価から、「不凍結水(NFW)」「中間水(IW)」「自由水(FW)」の3つの結合状態を定量的に評価することが可能となりました【図1】。
この評価法により汎用の保湿成分が保持する中間水量を解析しました。その結果、トレハロースおよびPCA-Naが高い数値を示し、トレハロースはグリセリンの1.5倍、PCA-Naはグリセリンの2倍の「中間水」を保持することが明らかになりました【図2】。
注) 図2の見方:横軸は各成分の水の量を、縦軸は各水の状態の含有量(wt%)を示しています。例えばグリセリンにおいて、横軸の「含水率30wt%」とはグリセリン70wt%、水30wt%で、30wt%の水の全てが不凍水になっている状態を示しています。含水率70wt%とは、グリセリン30wt%、水70wt%のことで、このときは、不凍水が約30wt%分、中間水が40wt%分存在している状態を示しています。
(2)肌に有益な「弱い結合水」 — 長らく見過ごされてきた水の状態の重要な役割を解明 —
(第一三共ヘルスケアによる発表内容)
本研究では、さまざまな水の結合状態を評価するためにラマン分光法のピーク分離手法を応用し、結合力の強い順に「非常に強い結合水(DAA)」>「強い結合水(DDAA)」>「弱い結合水(DA)」>「微かな結合水(DDA)」>「自由水(Free)」の5つの状態に分離しました【図3】。
本手法を用いることで、化粧品に一般的に使用される原料の評価から、人の角層に塗布した後の水の結合状態まで、同じ手法で評価することができます。これにより、原料の特性を把握しつつ、実際に人に塗布した後の変化も確認できるため、評価の精度が高まります。
肌の保湿を考えた際、若年層において角層中の「強い結合水(DDAA)」に対する「弱い結合水(DA)」の比率が高いことが知られていることに着目し、その比率が高い原料について評価を行いました。その結果、高濃度領域ではPCA-Naが、低濃度領域ではトレハロースが高いことが明らかになりました【図4】。
そこで、この2つの原料を用いた製剤を人の前腕内側部に塗布したところ、表層からより深い部分で、角層中のDA/DDAAの比率の向上が認められ、弱い結合を持つ水を向上させることが可能となりました。【図5】。
■ 今後の展望
本研究を通じて、「中間水」や「弱い結合水」の水分状態の解析を可能にする手法を確立したことで、肌の水分状態をより精密に理解し、評価する新たな枠組みが構築されました。
この成果によって、従来の水分評価法では見過ごされていた領域に光を当て、新たな知見を得ることが可能となります。この取り組みは、従来のスキンケアアプローチを革新し、保湿効果に関する新たな概念を提案する第一歩と捉えています。
今回得られた知見をもとに、「中間水」と「弱い結合水」の更なる働きを解明し、より高い保湿効果を実現するスキンケア製品開発への応用を目指してまいります。
<ご参考>
1. 第一三共ヘルスケアについて
第一三共ヘルスケアは、第一三共グループ※の企業理念にある「多様な医療ニーズに応える医薬品を提供する」という考えのもと、生活者自ら選択し、購入できるOTC医薬品の事業を展開しています。
現在、OTC医薬品にとどまらず、機能性スキンケア・オーラルケア・食品へと事業領域を拡張し、コーポレートスローガン「Fit for You 健やかなライフスタイルをつくるパートナーへ」を掲げ、その実現に向けて取り組んでいます。
こうした事業を通じて、自分自身で健康を守り対処する「セルフケア」を推進し、誰もがより健康で美しくあり続けることのできる社会の実現に貢献します。
2.御木本製薬について
御木本製薬は、化粧品メーカーであり、世界で初めて真珠の養殖に成功したジュエリーブランド〈MIKIMOTO〉の創業精神を受け継ぐグループ会社です。1943年に真珠由来成分を活用した医薬品メーカーとして創業し、現在では化粧品・医薬部外品・健康食品の製造・販売を行っています。また、自社ブランド「ミキモト コスメティックス」を展開するとともに、国内有数の化粧品メーカーに対してOEM・ODMによる受託製造も手がけています。
※ 第一三共グループは、イノベーティブ医薬品(新薬)・ワクチン・OTC医薬品の事業を展開しています。
<リリース原文(PDF)>