台湾での実証を経て、日本のスタートアップが国際事業を加速
比翼加速器股份有限公司のプレスリリース
東京大学バイオデザイン発INOPASE は、2021年にBE Healthと秀傳医療グループ(SCHS)のアクセラレータープログラムに参加し、概念実証(PoC)を成功裏に完了しました。その後わずか2年間で、国際的な臨床研究や投資連携へと事業を拡大しています。
なぜ東京大学バイオデザイン発の日本スタートアップが、最初の実証の場として台湾を選んだのでしょうか。
その背景には、台湾ならではの資源や環境の優位性がありました。
高齢社会に潜む未解決の医療ニーズ
日本が超高齢社会へと進むにつれ、年齢に関連するさまざまな疾患が顕在化しています。
その中でも、排泄に関わる失禁約1,000万人の成人が過活動膀胱(OAB)に悩まされており、その割合は12%に達するとされています。高齢層ではその比率がさらに高いことも報告されています。
これらの症状は一見「生活上の小さな問題」と捉えられがちですが、実際には大きな影響を及ぼします。患者は外出を控えて社会的交流が減少し、不眠やうつといった精神的な問題を抱えることも少なくありません。家庭や介護体制にとっても大きな負担となります。
一方で、日本におけるてんかん患者は約100万人と推計されており、その中には薬物治療に十分な効果が得られないケースも少なくありません。発作時には痙攣や意識消失だけでなく、排泄の失禁や自律神経の乱れを伴うことがあり、患者本人にとっても家族にとっても深刻な状況をもたらします。
こうした課題は、日本政府が医療スタートアップの育成や国際連携を積極的に推進している背景にあり、解決すべき重要なテーマとなっています。しかし、日本の医療環境において、スタートアップが資金支援を得るのは決して容易ではありません。そこでINOPASEは、国際的な協業の機会を模索することとなりました。
INOPASEの解決策:神経修復による症状改善
INOPASEの主要製品は、まさにこうした臨床ニーズに応えるために開発された植込み型ニューロモジュレーションデバイスです。
創業当初、INOPASEは「臨床現場が直面する根本的な課題」に着目し、研究開発を進める道を選びました。既存の治療法の多くは症状の抑制にとどまり、根本的な改善には至っていないという現実が背景にあります。膨大な医学文献を精査する中で、開発陣は「神経修復」が真の解決につながる鍵であると認識しました。症状を本質的に改善するには、神経レベルで機能を再構築する必要があると考えるようになったのです。
INOPASEは、電気刺激技術の可能性に着目し、これにワイヤレス給電技術を融合させ、世界で初めて神経フィードバック機能を備えた低侵襲植込み型ニューロモジュレーションデバイスを開発しました。このデバイスは、一度の低侵襲手術で長期的に患者を支え、生活の質を取り戻すことを可能にします。さらに、医師は遠隔で患者の状態を即時に把握し、最適な治療方針へと調整することができます。
INOPASEの共同創業者であり、台湾出身で東京大学博士課程を修了した最高技術責任者(CTO)の王彥博氏は、次のように述べています。
「神経フィードバック機能を備えた植込み型神経刺激装置は、神経修復の効果を高め、従来の装置よりも優れた治療効果を発揮できる可能性があります。さらに、症状の根治に至る可能性も秘めています。
また、本装置は患者の状態に応じて刺激の周波数や強度を即時に調整できるため、治療効果の向上に加えて、患者の頻繁な通院負担を軽減することができます。」
高齢の失禁患者にとって、このような治療手段は利便性が高く、生活の質を大きく改善するものです。
王氏の言葉は、この革新的技術の核心を的確に示しています。すなわち、患者ニーズを起点に、技術を臨床現場へ確実に橋渡ししていく姿勢です。
台湾の役割:臨床検証を支える最適な環境
INOPASEとBE Healthの出会いは、東京大学Biodesignで開催されたイベントにさかのぼります。BE Health創業者のArthur Chen氏と出会ったことを契機に、両者の協力関係が始まりました。
創業初期、まだコンセプト段階にあったINOPASEには、アイデアを検証できるプラットフォームが必要でした。そのため、同社はBE HealthのPoCプログラムへの参加を決断しました。
BE Healthの紹介により、INOPASEは秀傳医療グループの医師と連携体制を構築し、台湾で動物実験を実施しました。また、工業技術研究院(ITRI)からはプロトタイプ開発の支援を受けることができました。こうした検証成果を基盤に、INOPASEは日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を獲得しています。
台湾の柔軟かつ高効率な臨床検証環境は、国際スタートアップが短期間で「研究室」から「臨床前」へと進む上で重要なステップとなり、日本の厳格な医療システムに対しても、より迅速かつ効果的な協力の道筋を提供しています。
成果と今後の展望
BE Healthおよび秀傳医療グループの支援を受け、INOPASEはわずか2年で大きな成果を積み重ねてきました。これまでに8件の特許を取得し、資金調達額は290万米ドルに達しています。また、日本・ドイツ6社のベンチャーキャピタルから出資を受けています。
日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を獲得し、過活動膀胱とてんかんの2大プロジェクトを推進しています。さらに、日本及びオーストラリアで臨床試験を開始予定です。
加えて、INOPASEは国際的なメドテックアクセラレーションプログラム「MedTech Innovator APAC」でファイナリスト上位4社に選出されるなど、国際舞台でも高く評価されています。これらの成果は技術の実現可能性を裏付けるものであり、同社は国際的な医療市場において着実に地歩を固めています。今後の目標は、臨床試験を完了させ、来年中旬までにシリーズA資金調達を実現することです。
BE Healthの価値:国境を越えた展開と資源連携
INOPASEの成功は、BE Healthが持つ独自の価値を鮮明に示しています。
BE Healthは台湾で唯一、「病院 × ベンチャーキャピタル × アクセラレーター」 を一体化させた医療イノベーション・プラットフォームとして、単なる投資にとどまらず、臨床と産業界を結ぶ架け橋の役割を担っています。
BE Healthのリソースを活用することで、国際スタートアップは台湾で技術面と臨床面の双方における検証を行い、その成果を基盤に日本、さらにはグローバル市場へと展開することが可能になります。このモデルは、日本の厳格な臨床検証基準に適合するだけでなく、台湾が「アジアの医療イノベーション・ハブ」として果たす役割を体現しています。
BE Health東京オフィスの開設は、その象徴的な一歩といえます。東京大学から台湾・秀傳医療グループへ、ニーズ定義からクロスボーダー検証へ、技術の雛形から国際臨床へと至るINOPASEの歩みは、アジアにおける新たな医療イノベーションのモデルケースとなっています。
今後、BE Health東京拠点は、こうした協力スキームをさらに制度化していきます。
INOPASEと秀傳医療グループの協業は単なる一事例にとどまらず、今後数多くの国際共同検証の範例となり、日台医療連携の象徴ともなるでしょう。
アジアが高齢化とデジタルヘルスの時代を迎えるなか、より多くの国際スタートアップがBE Healthのプラットフォームを通じて臨床、そして国際市場への道を切り拓き、患者の生活を本質的に改善するイノベーションを実現していくことが期待されます。
◼︎BE Healthについて
BE Healthは、メドテック分野におけるイノベーションの推進に注力しています。
当社には、「BE Accelerator」と「BE Health Ventures」という2つのビジネスモデルがあり、メドテック領域のスタートアップの開発から市場開拓まで包括的に支援しています。
「BE Accelerator」は台湾最大のメドテックスタートアップアクセラレーターであり、2018年の設立以来、台湾の3つの大手医療機関と連携し、約100名のメンターと共に150社以上のスタートアップへを指導してきました。また、総額200億ドルを超える資金調達を実現しました。
「BE Health Ventures」は、スタートアップへの投資を行い、持続可能な成長を支援しています。