ロート製薬株式会社のプレスリリース
ロート製薬株式会社(本社:大阪市、社長:瀬木英俊)は、ロートグループ 総合経営ビジョン 2030「Connect for Well-being」の実現に向けて、白髪の根本的な改善方法の確立を目指した研究を進めています。今回、2,186人を対象とした大規模ゲノムワイド関連解析※1(以下、GWAS解析)を実施した結果、日本人特有の白髪関連遺伝子Plexin-A1※2(以下、PLXNA1)を世界で初めて発見しました。さらに、semaphorin(Sema)-plexinシグナル経路※3が白髪形成メカニズムに関与する可能性を明らかにしました。
本研究成果は2025年9月15日~18日にフランス・カンヌで開催された第35回国際化粧品技術者会連盟カンヌ大会2025(The 35th IFSCC Congress 2025 France Cannes)で発表いたしました。
1.研究成果のポイント
◆ 日本人2,186人の大規模GWAS解析により日本人特有の白髪関連遺伝子を発見
◆ 欧米・中南米中心だった従来研究とは異なり、PLXNA1を関連遺伝子として特定
◆ アジア人向け白髪用製品の開発や診断事業への応用に期待
2.研究の背景
これまでの白髪に関する遺伝的要因を研究する手法の1つであるGWAS解析は欧米・中南米集団が中心で、アジア人集団での知見は限定的でした。一方、高齢化社会の進展に伴い日本人の白髪への関心が高まっているものの、現在の白髪対策は染毛が主流で、根本的な改善方法は確立されていません。
白髪は最も顕著な加齢現象の一つとして社会的・心理的影響が大きく、「効果的な改善方法がない」現状から、科学的根拠に基づく解決策が強く求められています。
白髪による心理的負担の軽減と生活の質向上への貢献を目指し、日本人特有の遺伝的背景に基づいた白髪メカニズムの解明に取り組みました。
3.結果
結果1 日本人大規模GWAS解析によりPLXNA1遺伝子を特定
日本人2,186人を対象とした白髪に関するアンケートおよびGWAS解析を実施しました。結果、白髪との関連性の高い遺伝子として、PLXNA1遺伝子を確認しました(図1)。これまで神経系の発達に関わることが知られていたPLXNA1遺伝子が、白髪形成に関与する可能性を世界で初めて明らかにしました。
結果2 Sema-plexinシグナル経路の白髪メカニズムへの関与を示唆
Sema-plexinシグナルのメラノサイトでの作用を調べるために、培養メラノサイト※5を用いた評価を行いました。PLXNA1のリガンドであるSema-3A(以下、Sema III )をメラノサイトに添加したところ、メラノサイトの突起伸長を有意に抑制する結果が得られました(図2)。
4.今後の展望
本研究成果により、日本人特有の遺伝的背景に基づいた白髪の根本的メカニズムが解明されました。今後は、Sema-plexinシグナル経路を標的とした白髪ターゲット製品の開発を目指します。
従来の染毛による対症療法とは異なり、メラノサイト機能の維持・活性化による根本的なアプローチにより、「隠す」から「予防・改善する」への市場パラダイムシフトをリードしていきます。
◇用語説明
※1 大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS解析)
ゲノム全体にわたって遺伝子の違いを網羅的に調べ、病気や体質との関連を統計学的に解析する手法。大規模な集団を対象とすることで、疾患や形質に関わる遺伝的要因を特定できる。
※2 白髪関連遺伝子Plexin-A1(PLXNA1)
今回新たに白髪との関連が発見された遺伝子。本来は神経系の発達に関わることが知られていたが、同じ神経堤細胞*由来のメラノサイト(色素細胞)の機能制御にも関与することが明らかになった。
* 神経堤細胞 胚発生過程で神経管の背側から生じる多能性幹細胞。メラノサイト、末梢神経系、顔面頭蓋骨などの多様な組織に分化する。
※3 semaphorin(Sema)-plexinシグナル経路
神経系の発達や血管新生などに関わる細胞間コミュニケーションシステム。Semaタンパク質がPlexinレセプターに結合することで、細胞の移動や突起の伸長を制御する。
※4 一塩基多型(SNPs)
SNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)とは、ゲノムDNA配列の中で、個体間または集団間で1塩基(A・T・G・C)の違いが見られる領域のことを指す。SNPの一部は遺伝子発現量やタンパク質機能に影響を及ぼし、体質の違い、疾患感受性や薬物応答の個人差の要因となる。
※5 メラノサイト
皮膚や毛髪に色素(メラニン)を供給する色素細胞。毛根部では毛母細胞にメラニンを受け渡すことで毛髪に色をつける。加齢とともに機能が低下し、白髪の原因となる。