テクニカルディベロップメントセンター(TDC)で異分野共創型モノづくりを加速
株式会社ポーラ・オルビスホールディングスのプレスリリース
ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:片桐崇行)では、横浜事業所内に新設したテクニカルディベロップメントセンター(TDC)において、化粧品とは遠い領域との「異分野共創」から着想を得ることで、新たな化粧品づくりを進めています。今回、取り組みの一環として、超微細な油滴を水中に分散するナノ乳化技術において、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、京都大学との共同研究により、マグマの熱で暖められた熱水が噴き出す深海熱水噴出孔に着想を得たナノ乳化技術「MAGIQ(※1)」を化粧品業界で初めて化粧品開発に応用し、その可能性を示した成果を、12月8日~10日に開催された第3回日本化粧品技術者会学術大会にて発表しました。
※1 「Monodisperse nAnodroplet Generation In Quenched hydrothermal solution(急冷熱水溶液中における単分散ナノ液滴生成)」の略称
深海熱水噴出孔での乳化機構を分子シミュレーションで解明し、化粧品応用を実現
本来、水と油は混ざり合いませんが、微小な油滴として水に分散させる乳化技術は、化粧品において欠かせない技術です。近年、油滴を極限まで小さくした「ナノエマルション」は、肌表面の角層内への浸透性や品質の安定性において優れていることから、化粧品分野において注目されています。従来の一般的な乳化技術では、水と油を混ざりやすくするために界面活性剤の配合や強力な撹拌力が必要でした。一方、JAMSTECの出口センター長らが開発したナノ乳化技術「MAGIQ」は、深海熱水噴出孔付近の超高温・高圧環境下で起きる「水と油が自然に混ざる」現象に着想を得て、超高温・高圧環境下で水と油を混ぜて急激に冷やすことでナノエマルションを作る、新しいナノ乳化技術です(補足資料1)。MAGIQを使えば、わずか10秒という短時間でのナノエマルション製造、従来の技術では難しかった油剤の活用、そして製造コストの削減が期待されます。
今回、ポーラ化成工業では、JAMSTECと京都大学と共同で分子シミュレーションを用い、深海熱水噴出孔付近のナノ乳化メカニズムを解明しました。この知見をもとに「MAGIQ」が化粧品分野に応用可能であること(補足資料2)、さらに、製造条件を変えるだけでエマルションのサイズを30~200nmと幅広く自在に制御できることを確認しました(図1)。この技術を応用することで、角層への浸透性や保湿実感の向上が期待されます。

これまでにない化粧品を実現する、「異分野共創型モノづくり」の加速
ポーラ化成工業では、これまでにない高機能・高品質な化粧品の創出を目指し、研究・開発・生産が一体となった技術開発体制を実現するTDC(図2)を起点に、異分野共創型モノづくりに注力しています(補足資料3)。

異分野共創型モノづくりの加速には、分子レベルでのメカニズムを理解し、その知見に基づいて化粧品を設計・実装することが重要だと考えています。そのため、分子動力学や量子力学に基づくシミュレーションや高輝度放射光施設NanoTerasu(※2)を活用したナノレベルの分子挙動の可視化を進めています。
こうした取り組みを通じて、ポーラ化成工業では異分野共創型モノづくりを加速し、これまでにない高機能・好感触の化粧品の可能性を切り拓いていきます。
※2 「ポーラ化成工業×東北大学 「境界の融和」共創研究所を設置 https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20250203.pdf
【補足資料1】深海熱水噴出孔に着想を得たナノ乳化技術「MAGIQ」
従来の乳化物は、大きな油滴を物理的に砕いて小さくする「トップダウン方式」で作られてきました。これに対し、JAMSTECの研究チームは深海の熱水噴出孔(図3)の環境にヒントを得て、油分子が自然に集まりナノサイズの油滴を作る「ボトムアップ方式」の乳化技術「MAGIQ」を開発しました(※3)(図4)。熱水噴出孔の周辺では、超高温・高圧の熱水が噴出し、深海の冷たい海水が瞬時に超臨界状態と呼ばれる超高温・高圧の状態となった後、再び周辺の冷たい深海の水にさらされるようなダイナミックな温度変化の極限環境にあり、ナノエマルションの形成に適した環境だと考えられています。


MAGIQでは、水と油を高温・高圧で混ぜた後、急速に冷やしながら乳化剤を加えることで、油分子が自ら整列しナノサイズの液滴になります。さらに、油が高温にさらされる時間をわずか5秒以内に抑えることで、成分の劣化を防ぎながら安定したナノ乳化を実現しています。MAGIQの応用により、従来困難だった機能性油剤のナノエマルション化が可能となり、生活者の化粧品体験の向上が期待されます。
※3 海洋研究開発機構 プレスリリース 深海底から噴き出す熱水にヒントを得てナノテクノロジーを開発 ―たったの10秒でナノエマルション化に成功― https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/archive/2013/20130514_2.pdf
【補足資料2】 シミュレーションにより、MAGIQの化粧品への応用を実証
ポーラ化成工業は、JAMSTEC、京都大学と共同で、分子シミュレーションを活用し、深海熱水噴出孔に着想を得たナノ乳化技術「MAGIQ」のメカニズムを解明しました。
MAGIQは、超高温・高圧環境下で起こるナノ秒オーダーの現象を利用する技術であり、従来の方法ではメカニズム解明が困難でした。そこで、分子シミュレーションによりナノスケールの現象を可視化し、化粧品に用いられる油剤が高温・高圧水に分子レベルで溶解し、その挙動が化学構造に依存することを初めて明らかにしました。この知見をもとに、MAGIQが化粧品分野に応用可能であることを実証しました(※4)。
※4 T. Okamura, et al., “Deep-sea-inspired bottom-up nanoemulsification of alkyl esters in water,” Journal of Colloid and Interface Science, 139043 (2025). https://doi.org/10.1016/j.jcis.2025.139043
上記URL内で、シミュレーションの動画を公開しています。

【補足資料3】 TDCを中心とした異分野共創型モノづくりの取り組み
ポーラ化成工業のTechnical Development Center(TDC)は、研究・開発・製造を一気通貫で結ぶ異分野共創の拠点です。化粧品分野では前例のない技術を積極的に取り入れ、従来の枠を超えた新しい価値創出を目指しています(※5)。
これまでの取り組んできた事例として、半導体分野で培われた高精度充填技術を応用し、超精密充填や誤差ゼロ化システムを構築しました。これにより、医薬部外品における厳密な成分量管理を実現し、品質保証と生産効率を両立しました(※6)。この技術は、シワ改善医薬部外品として日本初の「用時調製」剤型の開発にもつながっています。さらに、セラミック技術を活用したウルトラファインバブル(UFB)発生機を応用し、「空気」を機能性原料化することで、超微細気泡で肌に残らず刺激性のない、世界初の洗浄用化粧品技術を確立しました。この技術は国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)世界大会でも発表され、国際的に高い評価を得ています(※7)。TDCはこれからも、化粧品の常識を超えた高機能・好感触な化粧品価値を創造し続けます。
※5 技術リリース 「ポーラ化成、横浜に生産技術開発および生産を担う施設を拡充 研究から生産までを一気通貫させ、よりハイレベルなモノづくりへ」 https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20231221.pdf
※6 技術リリース 「ポーラ化成、新剤型を可能とした精密充填技術を構築、生産スタート シワ改善医薬部外品として国内初の『用時調製』剤型」 https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20241003_5.pdf
※7 技術リリース 「ポーラ化成、世界的に権威ある化粧品技術者学会にて発表 ウルトラファインバブル(UFB)の長期安定化配合を初めて実現」 https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20241010_2.pdf

