npj Aging に研究成果が掲載
Craif株式会社のプレスリリース
バイオAIスタートアップのCraif株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役CEO:小野瀨 隆一、以下Craif)は、尿中に含まれるマイクロRNA(miRNA)を独自のバイオAI技術基盤で解析し、生物学的年齢(=細胞レベルの老化度)を高精度に推定するエイジングクロックを開発しました。本研究成果は、2025年12月15日に老化や健康寿命延伸に関する国際学術誌 npj Aging に掲載されました。
老化は多くの疾患の根本的なリスク因子であり、世界的な高齢化が社会問題となる中、抗老化(アンチエイジング)研究が急速に進められています。抗老化や健康寿命延伸に関する市場規模は2030年までに数十兆円まで成長すると予測されており、簡便かつ精度の高い老化指標の開発が強く求められています。本研究で開発した尿中マイクロRNAベースのエイジングクロックは、日常的に取得可能な尿検体のみで生物学的年齢を高精度に推定できる点が特徴であり、抗老化創薬や健康寿命延伸サービス実装につながる技術基盤となることが期待されます。
■ 研究のポイント
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尿中マイクロRNAで、生物学的年齢を平均4.4歳の誤差で予測。これまで主流であったDNAメチル化検査に迫る精度を、非侵襲・低コストで実現
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日本人6,331名のマイクロRNAでパターンの大規模な解析。独立したコホートでの検証においても高い再現性を確認
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老化と深く関連する主要マイクロRNA(miR-34a-5pなど)を多数同定
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実年齢と生物学的年齢の違いを示す「ΔAge(デルタエイジ)」が、糖尿病で有意に上昇。糖尿病が体内の老化の加速要因となっていることが示唆
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採尿するだけで実施可能。将来的には自宅での健康管理へ応用可能
■ 研究概要
老化は、多くの慢性疾患の根底にある最大のリスク因子です。しかし「体の中が実際どれだけ老化しているのか(生物学的年齢)」を知るには、血液を採取したり、専門医療機関での検査が必要でした。
これでは多くの人が気軽に老化の進み具合を知り、健康づくりに活かすことができません。
そこで本研究では、誰もが毎日自然に排出している尿の中に、実は全身の老化の手がかりが含まれていることに着目しました。尿には、体中の細胞から血流を通って運ばれてくるマイクロRNAと呼ばれる分子が含まれています。マイクロRNAは、細胞の状態変化を敏感に反映する「生体のメッセンジャー」のような存在です。
私たちは、名古屋大学と共同で、日本人6,331名分の尿を解析し、
・どのマイクロRNAが年齢とともに変化するのか
・その変化パターンが、体の老化とどう結びつくのか
をAIで徹底的に調べました。
具体的には、日本人約6,000例の尿中マイクロRNAデータを解析し、実年齢との関係性を学習したバイオAI解析により、生物学的年齢推定モデルを構築するとともに、同規模データを用いてその精度と再現性を検証しました。
その結果、わずか1回の採尿だけで、細胞レベルの年齢=生物学的年齢を高精度に推定できることが分かりました。
予測誤差は平均約4.4歳と、高い精度を示しました。
さらに解析の結果、本研究で老化との関連が確認された miR-34a-5p や miR-146a-5p などのマイクロRNAは、これまで主に血液検体や細胞実験でも研究され、細胞周期制御やDNA損傷応答、炎症性サイトカイン産生などの加齢関連パスウェイに関与し、老化細胞の蓄積や慢性炎症(インフラマジング)を促進する老化のドライバーとして注目されてきたことが知られています(Turko et al., 2025)。
一方で、尿という非侵襲的な検体において、これらのマイクロRNAが大規模集団データで一貫して老化指標として機能することを示した研究はこれまで限られていました。
本研究の新規性は、既存研究で示唆されてきた老化関連マイクロRNAの知見を、6,000人超の尿検体という大規模実データで検証し、実用可能な生物学的年齢推定モデルとして成立させた点にあります。
加えて、本研究では、生物学的年齢と実年齢との差(ΔAge)にも注目しました。
その結果、糖尿病を持つ人では ΔAge が有意に高いことが明らかになりました。
これは、糖尿病が体の老化を通常よりも早く進める「老化加速要因」である可能性を示し、老化と生活習慣病の深い関係性が尿から捉えられることを意味します。
■ 社会的意義
老化は、がん、心血管疾患、糖尿病、認知症など主要な疾患の発症リスクを規定する最も強力な要因であり、老化の客観的評価は予防医療の中核を成す指標と考えられています。しかし現在、臨床現場で広く使用できる非侵襲的かつ利便性の高い生物学的年齢測定法は限られており、普及には課題が残っています。
本研究によって開発された尿中マイクロRNA エイジングクロックは、採尿のみで実施できることから、被験者負担を最小限にした継続的な老化評価が可能となります。また、生物学的年齢と疾病リスクの関連を大規模データで検証しうる手段となり、生活習慣病や老年疾患における加速老化を検出する指標として有用性が期待されます。さらに、認知症やアルツハイマー病に関連する分子レベルの変化を、脳に限らず全身を反映した情報として、非侵襲的に捉えられる可能性があります。
加えて、生物学的年齢の縦断的モニタリングを通じて、医療介入・生活習慣改善の効果を定量的に把握できる可能性があります。これは、老化研究と臨床のギャップを埋め、個別化予防戦略の構築を支援するものであり、健康寿命延伸施策の科学的基盤の強化につながると考えられます。
■ 解説
実年齢と生物学的年齢の違いとは?
私たちが普段「◯歳です」と答える年齢は、誕生日から何年経ったかを示すカレンダー上の年齢(実年齢)です。一方、生物学的年齢は、体の中の細胞や臓器がどれくらい「使い込まれているか」「若々しく働いているか」を、分子レベルの指標から推定したものです。
たとえば同じ 50 歳でも、生活習慣や病気の有無によって、細胞レベルでは 40 代のように若々しい人もいれば、60 代相当まで老化が進んでいる人もいます。生物学的年齢は、この「中身の実年齢」を数値で可視化する指標です。
ΔAge(デルタエイジ)が教えてくれること
本研究では、「生物学的年齢 − 実年齢」の差を ΔAge(デルタエイジ)と定義しています。ΔAge がプラスで大きいほど、カレンダー上の年齢よりも体の中の老化が進んでいる=老化が加速していることを意味します。逆にマイナスであれば、同年代より若々しい状態だと解釈できます。
今回の大規模解析では、糖尿病を持つ方で生物学的年齢が有意に高いことがわかりました。これは、糖尿病が血管障害や慢性炎症などを通じて、体内の老化を押し進める要因(エイジングアクセラレーター)として働いている可能性を示唆しています。さらに、老化に起因する認知症の早期兆候を捉える非侵襲的アプローチにもつながる可能性があります。尿中マイクロRNAに基づくエイジングクロックは、こうした「病気による老化の加速」を非侵襲に捉える、新しい指標になり得ます。
■論文情報
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タイトル:A urinary microRNA aging clock accurately predicts biological age
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掲載誌:npj Aging
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著者:Milos Havelka, Atsushi Satomura, Hiroki Yamaguchi, Akira Cortal, Yoriko Ando, Motoki Mikami, Mika Mizunuma, Yuki Ichikawa
■ Craifについて
Craif(クライフ)はがん早期発見に取り組む2018年創業のバイオAIスタートアップです。尿をはじめとする体液から、DNAやマイクロRNAなど多様なバイオマーカーを高精度に検出する独自の解析技術基盤「NANO IP®︎(NANO Intelligence Platform)」とAI技術を融合し、がんの超早期発見・早期治療・早期復帰を可能にする革新的な検査を開発しています。バイオテクノロジーとAIの力を社会に広く届けることで、当社のビジョンである「人々が天寿を全うする社会の実現」を推進します。
【会社概要】
社名:Craif株式会社(読み:クライフ、英語表記:Craif Inc.)
代表者:代表取締役 小野瀨 隆一
設立:2018年5月
資本金:1億円(2024年3月1日現在)
事業:がん領域を中心とした疾患の早期発見や個別化医療の実現に向けた次世代検査の研究・開発、尿がん検査「マイシグナルシリーズ」の提供
本社:東京都新宿区新小川町8-30 THE PORTAL iidabashi B1F