【名城大学】食用ラン藻スイゼンジノリから 肌の弾力維持に関わる新たな成分候補を発見

学校法人 名城大学のプレスリリース

―クロロフィル由来成分の新たな機能性と化粧品素材への応用に期待―

名城大学大学院総合学術研究科(片山絵理香大学院生・景山伯春 教授)と農学部(加藤雅士 教授・志水元亨 准教授)らのグループは、日本で古くから食用とされてきたラン藻(シアノバクテリア)「スイゼンジノリ」注1)から、皮膚の弾力性維持に関わるタンパク質エラスチンを分解する酵素「エラスターゼ」注2)の働きを抑える新たな成分候補として、クロロフィル(葉緑素)由来のフェオフォルバイド注3)関連化合物を見いだしました。
 本研究は、植物や藻類に広く存在するクロロフィルから生じるフェオフォルバイド関連化合物に、これまで十分に知られていなかった機能が存在する可能性を示すものです。
 今後、スイゼンジノリに含まれる活性成分の詳細な構造や安全性を明らかにすることで、天然由来の機能性素材や化粧品素材への応用につながることが期待されます。
 本研究成果は、2026年10月 20日に日本化粧品技術者会が刊行する国際誌「Applied Cosmetic Science and Technology」に掲載されました。

【本件のポイント】

・日本固有の食用ラン藻スイゼンジノリから、エラスターゼを阻害する成分を探索しました。
・活性成分の候補としてフェオフォルバイド関連化合物を見いだし、フェオフォルバイドaが
 低濃度(IC50 注4)= 2.3 μM)で強いエラスターゼ阻害活性を示すことを明らかにしました。
・クロロフィル由来化合物の新たな生理機能を示す成果であり、機能性素材や化粧品素材への
 展開が期待されます。

【研究の背景】

 スイゼンジノリ(学名:Aphanothece sacrum)は、日本で古くから食用とされてきた淡水性のシアノバクテリアです。これまでにスイゼンジノリからは、高い保水性を持つ多糖「サクラン」や、紫外線を吸収する脂質由来化合物「サクリピン」など、特徴的な機能性成分が見いだされています。
 研究グループはこれまでに、サクリピンが抗酸化作用や抗糖化作用に加えて、エラスターゼ、チロシナーゼ、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼなど、皮膚に関連する複数の酵素を阻害することを報告してきました。中でもエラスターゼ阻害活性を詳しく調べる過程で、精製したサクリピンよりも、サクリピンを含むスイゼンジノリ抽出物の方が、その含有量から予想される以上に強い活性を示すことが分かりました。
 この結果から研究グループは、「スイゼンジノリにはサクリピン以外にも強いエラスターゼ阻害物質が存在するのではないか」と考え、その正体を探索しました。

【研究内容】

 研究グループは、市販の乾燥スイゼンジノリから抽出物を調製し、エラスターゼ阻害活性を測定しながら、溶媒分配、固相抽出、液体クロマトグラフィーを組み合わせて活性成分を段階的に分離しました。その結果、サクリピンがほとんど含まれていない画分にも強いエラスターゼ阻害活性が残ることが確認され、サクリピンとは異なる活性成分の存在が示されました。
 さらに、活性の高い画分を吸収スペクトルおよび液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)で解析したところ、クロロフィル由来のテトラピロール化合物に特徴的な性質が認められました。これらの結果から、フェオフォルバイドに関連する化合物がエラスターゼ阻害活性に関与している可能性が示されました。
 そこで研究グループは、市販のフェオフォルバイドaを用いてエラスターゼ阻害活性を調べました(図1)。その結果、フェオフォルバイドaは濃度依存的にエラスターゼを阻害し、50%阻害濃度(IC50)は2.3 μMでした。同じ測定条件で精製サクリピンのIC50値は38 μMであり、フェオフォルバイドaはサクリピンと比較して、より低濃度で強いエラスターゼ阻害活性を示すことが明らかになりました。
 これまでに天然由来のエラスターゼ阻害剤として知られているウルソール酸やケルセチンのIC50値は、それぞれ75.3 μM、107.6 μMという報告があります。単純な比較はできませんが、今回フェオフォルバイド a で得られた2.3 μMという値は、これらの既知の天然由来阻害剤と比較しても低く、フェオフォルバイド a が優れたエラスターゼ阻害活性を持つ可能性を示しています。

【研究成果の意義】

 エラスターゼは、皮膚の弾力性を支えるエラスチンなどの細胞外マトリックス成分を分解する酵素です。このため、エラスターゼの働きを抑える天然由来成分は、皮膚の老化に関連する機能性素材として研究されています。
 一方、フェオフォルバイド類は、植物や藻類に含まれるクロロフィルが分解される過程で生じる化合物です。これまでにも抗酸化作用や抗炎症作用などさまざまな生物活性が報告されていますが、エラスターゼ阻害作用については十分に研究されていませんでした。今回の研究は、クロロフィル由来化合物がエラスターゼ阻害物質となり得ることを示すとともに、スイゼンジノリに含まれる機能性成分の多様性を示すものです。
 また、今回検出されたフェオフォルバイド関連化合物が、生きたスイゼンジノリにもともと存在するのか、乾燥や保存などの過程でクロロフィルから生成するのかは、現時点では明らかになっていません。食品として利用されるスイゼンジノリでは、こうした加工過程で生じるクロロフィル由来成分が、その機能性の一部を担っている可能性も考えられます。

【今後の展開】

 フェオフォルバイド関連化合物の中には光に対する感受性を持つものも知られていることから、化粧品などへの応用を検討するためには、活性だけでなく光毒性を含めた安全性についても詳細に評価する必要があります。これらを明らかにすることで、スイゼンジノリをはじめとする食用シアノバクテリアや藻類に含まれるクロロフィル由来成分を、新たな天然由来機能性素材として活用する研究につながることが期待されます。

【用語解説】

注1)スイゼンジノリ:
 日本固有種のラン藻。江戸時代から高級食材として珍重され、秋月藩に献上された。環境省のレッドリストで絶滅の危機に瀕している種として「絶滅危惧I類」に分類されている。スイゼンジノリがつくる多糖類「サクラン」は、優れた吸水性を示し、化粧品などの産業分野で注目されており、応用利用されている。

注2)エラスターゼ:
 タンパク質を分解する酵素の一種。皮膚では弾力性に関係するエラスチンなどの細胞外マトリックスの分解に関与するため、エラスターゼ阻害物質は皮膚老化に関連する機能性成分として研究されています。

注3)フェオフォルバイド:
 植物や藻類などに存在するクロロフィルが分解される過程で生じるテトラピロール化合物の一種。

注4)IC50:
 ある作用を50%抑制するために必要な物質濃度を示す値。一般に、同じ測定条件では値が小さいほど低濃度で作用することを意味する。

【掲載論文】

雑誌名:Applied Cosmetic Science and Technology
タイトル:Pheophorbide-related compounds are potential elastase inhibitors in the edible
     cyanobacterium Aphanothece sacrum
著者: Erika Katayama, Motoyuki Shimizu, Masashi Kato, Rungaroon Waditee-Sirisattha and
    Hakuto Kageyama
掲載日:2026年10月20日
DOI: 10.69336/acst.2026-03

【本件に関するお問い合わせ先】

・研究内容に関すること
 名城大学大学院総合学術研究科 教授
 景山 伯春(かげやま はくと)
 Tel: 052-838-2609
 Email: kageyama@meijo-u.ac.jp

・広報担当
 名城大学渉外部広報課
 Tel: 052-838-2006
 Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp

https://www.meijo-u.ac.jp/

https://www.meijo-u.ac.jp/100th/

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