「パントエア菌LPS経口投与による糖尿病型認知機能障害の予防」研究成果の発表

自然免疫制御技術研究組合のプレスリリース

自然免疫制御技術研究組合(香川県高松市)では、2010年の設立時より、自然免疫機能に働きかけるパントエア菌LPS(以下LPSp)(注1)の実用化に向けて研究開発を行っております。
この度、当組合 研究開発本部・溝渕悠代主任研究員らは、LPSpを経口投与することで、糖尿病が誘発する認知症に予防効果があることを明らかにしました。この成果は、Frontiers in Immunology誌に掲載されました。
【URL】https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.650176/full

<研究内容>
マウスの脳内に糖尿病を誘発する薬剤を注入して作成した糖尿病関連認知機能障害(以下DRCD)モデルマウスを用いて、副作用なくDRCD発症予防すること、さらに、経口投与したLPSpにより末梢白血球の膜結合型コロニー刺激因子1(CSF1)(注2)の発現が促進され、ミクログリア(注3)のCSF1受容体(注4)を介して、ミクログリア活性化し、その結果、脳内の神経を保護するシグナルが発現することを明らかにしました。

<研究に至った背景>
糖尿病は全世界で4億6,300万人が罹患しており、その深刻な合併症の一つに糖尿病関連認知機能障害(以下、DRCD)があります。DRCDを予防することは、世界中の人々の健康を維持する上で非常に重要ですが、DRCDの根本的な予防法や治療法はまだ確立されていません。
そこで当組合の研究グループは、LPSpの経口投与に着目しました。これまでの研究で、LPSpを経口投与することで、高脂肪食が誘導するアルツハイマー型認知症を予防できることを明らかにしてきました(参考文献1)。他方、LPSpの経口投与が安全であることは、経済協力開発機構(OECD)の基準に準拠した試験により確認されています(参考文献2,3)。そこで、溝渕主任研究員らは、LPSの経口投与によりDRCDを安全に予防できるのではないか、と考えました。

<研究トピックス>
1.糖尿病関連認知症機能障害(DRCD)マウスの作製に短期間で成功
様々な認知症のうち、加齢によって脳にあるアミロイドβなど特殊なたんぱく質が蓄積されることで発症するアルツハイマー型認知症は、一般的に知られていますが、糖尿病により引き起こされる認知症機能障害(DRCD)が臨床において注目されています。糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすいこと、さらに、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいことが報告されています(国立国際医療研究センターHPより引用)。溝渕主任研究員らは、このDRCDに着目し、まず、マウス脳室内ストレプトゾトシン(注5)を投与しDRCDを引き起こすモデル作成に着手しました。この技術により、通常1か月以上必要とされる認知機能障害を約1週間で誘導できるモデル作製に成功しました。

2.LPSの経口投与(自由飲水摂取)には、糖尿病が誘発する認知症機能障害(DRCD)対し予防効果があることを実証
1.で作製したマウスを用い、モリス水迷路(注6)によりLPS経口摂取による認知症機能障害(DRCD)予防効果を実証しました。

以下は実験内容の説明になります。
(1)マウスに以下の処置を行いました(図A)。
A群は正常、B及びC群は、DRCDを引き起こしている状態です。

<A群:Saline>生理食塩水を脳室内に投与+蒸留水を経口投与
<B群:STZ>ストレプトゾトシンを脳室内に投与+蒸留水を経口投与
<C群:STZ+LPS>ストレプトゾトシンを脳室内に投与+LPSを経口投与

(2)モリス水迷路により、学習・認知機能を測定しました。
1)学習実験(図B)
実験に使用するのは水を張ったプールで、壁面にはいくつかの記号が書かれています。ある1つの記号の近くに水面ギリギリの高さの透明の台を置いておきます。そのプールの中で、各群のマウスを泳がせて、台にたどり着く時間を計測します(1日1回、4日間実施)。
1日目は、どの群のマウスも同じような秒数で台にたどり着きますが、2日目以降は、A群が台にたどり着く秒数が日に日に早くなるのに対し、B群は1日目とほとんど変化がありませんでした。一方、C群は、B群と同様にDRCDを引き起こしている状態であるにもかかわらず、A群の正常なマウスと同様の推移で早くなりました。
この実験により、マウスは、ある記号の近くに台があることを学習、記憶したことになります。

2)記憶確認実験(図C)
次に、1)で試験を行ったマウスを用い、今度は台を置かずプールを泳がせ、1)の実験で台が置かれていたある記号付近にどのくらいの時間居続けるかを計測、つまり台のあった記号を記憶しているかを確認しました。
すると、B群は、台が置かれていた記号付近での滞在時間がA群より明らかに短いのに対し、C群は、A群と同等程度の滞在時間であること、言い換えると、正常なマウスと同等程度、認知機能を維持することが示されました。

以上1)2)の結果は、LPSを経口投与することにより、DRCDを引き起こしている状態であっても認知機能が低下しないこと、すなわちLPSの経口投与により、糖尿病が誘発する認知症に対し予防効果があることを示す、重要な知見であると言えます。

 

3.LPSを経口投与により末梢白血球で膜結合型コロニー刺激因子1(mCSF1)が上昇することを発見

CSF1は、単球とマクロファージの成長と成熟を促進することが知られています。脳内のマクロファージであるミクログリアには、活性化すると「神経障害的に働くタイプ」(M1型)と、「神経保護的に働くタイプ」(M2型)がありますが、CSF1の刺激により、「神経保護的に働くタイプ」(M2型)の作用が強くなることが判っています。
今回、DRCDを引き起こしたマウスにLPSを経口投与することで、末梢白血球でmCSF1の発現が促進されることを発見しました。上記2.の結果と考え合わせると、末梢白血球で発現したmCSF1がミクログリアのCSF1受容体に結合、活性化することにより、「神経保護的に働くタイプ」に変化することを示唆するものと言えます(図D)。

       図D

【用語の説明】
注1 パントエア菌LPS(LPSp):パントエア菌は、グラム陰性菌であり、土壌や植物(小麦、イネ、サツマイモ、リンゴやナシ)に広く存在している。LPSは「リポポリサッカライド」の略(日本語では「糖脂質」)。機能性素材として、健康食品や化粧品などに配合されている。
注2 膜結合型コロニー刺激因子1(CFS1):リンパ球以外の白血球系幹細胞を刺激して、成長を促進される作用を持つ因子。膜結合型とは、単球などの細胞膜に結合するタイプのこと。
注3 ミクログリア:脳に存在する細胞の1つ。マクロファージとよく似た細胞で、細菌などの体内に侵入してきた異物を食べたり(貪食)、抗原提示するなど、免疫反応において重要な役割を持っていて、ミクログリアも同様の働きを持っている。「脳のマクロファージ」、「脳の免疫担当細胞」と呼ばれる。
注4 CSF1受容体:ミクログリアに存在。本研究で、膜結合型コロニー刺激因子1が結合することによりミクログリアが活性化し、脳内の神経を保護するシグナルが発現することが明らかになった。
注5 ストレプトゾトシン:動物に投与することで、膵臓のβ細胞に損傷を与え、糖尿病状態にする。
注6 モリス水迷路:行動実験においてマウスやラットの空間記憶の試験に用いられる。

【参考文献】
1. Kobayashi Y, Inagawa H, Kohchi C, Kazumura K, Tsuchiya H, Miwa T, et al. Oral Administration of Pantoea Agglomerans-Derived Lipopolysaccharide Prevents Metabolic Dysfunction and Alzheimer’s Disease-Related Memory Loss in Senescence-Accelerated Prone 8 (SAMP8) Mice Fed a High-Fat Diet. PloS One (2018) 13:e0198493. doi: 10.1371/journal.pone.0198493
2. Nunes C, Usall J, Teixidó N, Fons E, Viñas I. Post-Harvest Biological Control by Pantoea Agglomerans (CPA-2) on Golden Delicious Apples. J Appl Microbiol (2002) 92:247–55. doi: 10.1046/j.1365-2672.2002.01524.x
3. Usall J, Smilanick J, Palou L, Denis-Arrue N, Teixido N, Torres R, et al. Postharvest Biology and Technology Preventive and Curative Activity of Combined Treatments of Sodium Carbonates and Pantoea Agglomerans CPA-2 to Control Postharvest Green Mold of Citrus Fruit. Postharvest Biol Technol (2008) 50:1–7. doi: 10.1016/j.postharvbio.2008.03.001

【組合の概要】
組合名:自然免疫制御技術研究組合(経済産業省認可)
所在地:香川県高松市林町2217-16 FROM香川3F バイオ研究室
代表者:杣 源一郎(代表理事)
設立:2010年3月
URL:http://www.shizenmeneki.org/

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