~スキンケア化粧品の効果実感を高める技術~ 優れた浸透性を実現した防腐剤フリーのナノカプセルを開発 ‐キリングループの協和ファーマケミカルとファンケルが協業- <特許共同出願済み>

キリンホールディングス株式会社のプレスリリース

 キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典、以下キリン)は、株式会社ファンケル(社長 島田和幸、以下ファンケル)との間で、2019年の資本業務提携を契機にさまざまな共同開発を進めています。

 今回、ファンケルはキリンのグループ会社である協和ファーマケミカル株式会社(代表取締役社長 櫻井隆 以下協和ファーマケミカル)と共同で、皮膚への浸透性に優れたナノカプセルを防腐剤フリーで開発することに成功しましたので、お知らせいたします。
 ファンケルは、これまでスキンケア製品の効果実感を高めることを目的に、美容成分を肌に届けるナノカプセルの研究を行ってきました。その中で、ファンケル製品の特徴である防腐剤フリーを守ったまま、ナノカプセルの皮膚浸透性を向上させることには技術的な課題がありました。この課題について、協和ファーマケミカルとファンケルは協業により、解決する技術を見いだし、共同で特許出願を行いました。

<研究方法・結果>
【ナノカプセルの柔軟性による皮膚浸透性の変化を確認】

 一般的なスキンケア製品に配合されるナノカプセルは、水素添加レシチン1)を水に分散させ、ナノサイズ(1mの10億分の1サイズ)に微細化することで作製されます。さらに、美容成分を加えることで、内部に美容成分が保持されたナノカプセルを作製できます。ナノカプセルは微細なため、皮膚への浸透に優れており、内部に保持した美容成分を肌に届ける役割を担います。つまり、ナノカプセルの皮膚への浸透性は、スキンケア製品の機能性に直結すると考えられます。
 そこで最初にファンケルで、ナノカプセルの皮膚浸透性評価として、視認性を持った2種類のナノカプセルを三次元皮膚モデルに添加し、30分後に皮膚モデルの断面を顕微鏡で比較観察しました(図1)。

図1 浸透性評価のイメージ図と皮膚モデル断面を比較した顕微鏡写真

 図1の顕微鏡写真は、緑色が強い部位ほどナノカプセルが多く存在することを示しています。硬いナノカプセルを用いた場合は表皮付近に弱い緑色が観察されましたが、柔らかいナノカプセルを用いた場合は表皮に加え真皮においても緑色が強く確認されました。この結果は、柔らかいナノカプセルが硬いナノカプセルよりも皮膚への浸透に優れることを示しています。つまり、柔らかいナノカプセルを用いることで、内部に保持した美容成分を肌のより深くに送達できることが期待されます。

【ナノカプセルの安定化を検証 防腐剤フリーの柔らかいナノカプセル開発に成功】
 一般的にナノカプセルの原料には、菌汚染を防ぐ目的で防腐剤が配合されます。しかし、このような原料を使用することは、防腐剤による肌への刺激が懸念されます。
 防腐剤を配合せずに抗菌性を高める場合は、抗菌力を持つ保湿剤を配合しますが、これらの保湿剤はナノカプセルに相互作用して安定性を損なう原因となります。特に柔らかいナノカプセルでは不安定化が起こりやすく、防腐剤フリーとするためには技術的なハードルがありました。そこで、特定の美容成分がナノカプセルを安定化するという仮説のもと、柔らかいナノカプセルの安定化を試みました。
 ファンケルが選定した美容成分であるエクトイン2)およびコラーゲン・トリペプチドF3)を配合したナノカプセルを、協和ファーマケミカルにて技術検討の上で作製し、それらについて、安定化の指標となるナノカプセルのサイズ変化を観察しました(図2)。

図2 種々の美容成分を配合した防腐剤フリーナノカプセルのサイズ変化

 図2に示すように、美容成分を配合していないナノカプセルは3ヶ月後にサイズが減少し、不安定化することが確認されました。これは、抗菌性を高めるために配合した保湿剤が柔らかいナノカプセルに相互作用し、膜構造を歪めたためであると推察されます。また、エクトインのみを配合したナノカプセルも同様の結果であり、エクトイン自体にナノカプセルを安定化する機能はないことが分かりました。一方、エクトインに加えてコラーゲン・トリペプチドFを配合したナノカプセルでは、3ヶ月後においてもサイズはほぼ変化しませんでした。この結果は、美容成分としてエクトインとコラーゲン・トリペプチドFを配合することで、特異的にナノカプセルが安定化されることを示しています。
 この発見を生かし、防腐剤フリーで柔らかいナノカプセルを開発することに成功しました。このナノカプセルは、肌に不必要な防腐剤を含まないだけでなく、肌の深くまで美容成分を届けることができると期待されます。

<研究背景・目的>
 これまでにファンケルでは水素添加レシチンを用いたナノカプセルを作製し、それらのさまざまな特性について評価してきました。その中で、水素添加レシチンの特性がナノカプセルの膜構造に影響し、ナノカプセル自体の柔軟性に影響を与えることを明らかにしてきました。
 次ページの図3に示すように、異なる特性の水素添加レシチンを用いることで、ナノカプセルの膜構造をコントロールすることができます。具体的には膜構造が規則的であるほど硬いナノカプセルとなり、逆に不規則的であるほどナノカプセルの柔軟性は高くなります。柔軟性の高いナノカプセルは、硬いナノカプセルと比較して、肌への浸透性に優れるなどのメリットがありましたが、防腐剤を使わず柔らかいナノカプセルを安定化することは困難でした。
 そこで今回、独自のナノカプセル原料開発技術を持ち上市実績が多数ある協和ファーマケミカルと、美容成分活用の豊富な知見を持つファンケルが共同で、防腐剤フリーで柔らかいナノカプセルの開発を行いました。

図3ナノカプセルの膜構造と柔軟性に関するイメージ図

<今後の課題>
 今回の検証で、エクトインとコラーゲン・トリペプチドFがナノカプセルを安定化することは明らかになりましたが、安定化の詳細なメカニズムは未だ不明確です。今後、これらの美容成分の性質が、ナノカプセルの安定化にどのように寄与しているのかを明らかにすることで、ナノカプセルのさらなる機能化を進められると考えています。

 キリングループは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※先進企業となる」ことを目指しています。その実現に向けて、既存事業の「食領域」(酒類・飲料事業)と「医領域」(医薬事業)に加え、キリングループが長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」技術をベースにして、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス領域」(ヘルスサイエンス事業)の立ち上げ、育成を進めています。
※ Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造

 【用語説明】
(1) 水素添加レシチン
大豆などから作られる天然由来の脂質。肌をなめらかに整えるエモリエント効果がある。
(2) エクトイン
生体内の浸透圧を調整するとされるアミノ酸の一種。細胞内の水分量を高める働きがある。
(3) コラーゲン・トリペプチドF
コラーゲンを様々な手法で低分子化した成分であり、毛髪や肌へのなじみが良く、高い保湿効果を示す。

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