花王株式会社(ニュースリリース)のプレスリリース
花王株式会社(社長・長谷部佳宏) 解析科学研究所・ヘアケア研究所は、頭髪表層に発生するうねりが毛流れを乱して、髪の印象を損なう原因となっていることを見いだし、そのうねりに紫外線が深く関わっていることを発見しました。さらに発生メカニズムを調べると、紫外線の影響で毛髪内部の結合が切断され、切断された一部がひずんだ状態で再結合するという、美容室で施術されるパーマの仕組みに似た現象が起きていることを突き止めました。
今回の研究成果は、第89回SCCJ研究討論会(2022年12月1~2日・東京都)にて発表しました。
1.頭髪表層の特異的なうねりに着目
毛髪一本一本の形状の不規則なうねりは、日々のヘアケアでは抜本的な解決は困難であり、生まれつきのくせ、ヘアカラーや熱などによるダメージの蓄積が原因と考えられてきました。花王は、改めて頭髪の実態を調査し、髪をめくりあげた内側ではうねりが少ない一方、頭髪表層では顕著にうねりが多く、これが髪の印象に大きな影響を与えていることを見いだしました(図1)。そこで本研究では、頭髪表層に特異的に発生するうねりの要因とメカニズムの解明を試みました。
図1.頭髪表面と内側でのうねりの比較
2.紫外線とひずみの影響で、うねりが発生することを発見
実際の生活では、日中外出すると太陽光にさらされ、就寝時には枕との接触で毛髪がひずんだ状態のまま時間が経過するなど、複数の要因の影響が頭髪表層に集中すると考えられます。これらを考慮して評価 *1した結果、太陽光照射のみでは毛髪形状に有意な変化はみられませんでしたが、照射後、毛髪をひずんだ状態で保持すると顕著にうねりが発生し(図2)、保持時間が長いほどうねりが強くなりました(図3)。一方で、太陽光から紫外線を遮断するとうねりの発生が抑制されたことから、紫外線とひずみがうねり発生の大きな要因であることを見いだしました。
*1 夏の紫外線強度と同等に調整した人工太陽光を、実験用毛髪に4時間照射後、就寝時を想定して毛髪に一定の力を加えてひずませた状態で所定の時間静置した。その後洗髪し、セットがかからないように自然な状態で乾かしてうねりの程度を評価した。
図2.各要因で毛髪に生じるうねりの程度、図3.ひずみをかけて保持した時の経時的なうねり発生
3.パーマに類似したメカニズムで、うねりが発生していることを解明
毛髪を構成するタンパク質には、タンパク質をはしごのようにつなぐジスルフィド(S-S)結合が多数存在します。紫外線の影響でS-S結合が切断されることは報告されていますが、うねり発生との因果関係はわかっていませんでした。本研究では、うねりが発生する過程におけるS-S結合量の変化を、ラマン分光法*2を用いて経時的に分析しました。その結果、太陽光照射時は紫外線の影響でS-S結合が切断されて減少し、その後、急激に増加する過程と、緩やかに増加する過程があることを発見しました(図4)。これは、切断されたS-S結合の一部が、時間の経過とともに再結合していることを示す新しい知見です。さらに、S-S再結合とうねり発生の時間を比較すると、図3のうねりが徐々に強くなる時間と、図4の緩やかに再結合が進行する時間が合致しています。この緩やかな再結合は、タンパク質間のS-S再結合に対応すると考えられ、うねり発生と連動していることを明らかにしました。
*2 測定対象に適当な波長の光を当てて、光の散乱パターンから測定対象の化学的な変化を測定する手法。
図4.太陽光照射前後における毛髪内の S-S結合量の経時変化
以上より、毛髪が紫外線にさらされた後にひずんだ状態におかれると、切断されたS-S結合がひずんだ状態で再結合し、うねりの発生につながったと考えられます(図5)。これはパーマ*3と類似したメカニズムであり、頭髪の内側よりも、表層では紫外線やひずみの影響が特に大きく、意図せず不規則な形状に発生したうねりが固定された状態になっていると推察されます。
*3 薬剤(還元剤)で毛髪内のS-S結合を切断し、次の薬剤(酸化剤)で再結合させることで、毛髪の形状を固定させる。
図5.紫外線およびひずみの影響で、うねりが発生するメカニズムのイメージ図
4.まとめ
本研究の成果は、さまざまな髪悩みにつながる頭髪表層でのうねり発生メカニズムを、新たな側面から世界に先駆けて解き明かしたものです。うねり発生の一因である紫外線から髪を守ることは、皮膚と同様に重要です。今後は本知見を、毛髪に簡便に塗布できる紫外線対策製品の開発などに活かす予定です。