高齢者の隠れ嗅覚障害は『鼻トレ』で改善が可能? 高齢者施設での実証実験結果を発表

株式会社フィッツコーポレーションのプレスリリース

株式会社フィッツコーポレーション(東京都港区、代表取締役:富樫 康博 以下フィッツコーポレーション)は、高齢者の嗅覚低下に対する意識変容を促す「鼻トレ」を、埼玉県上尾市に位置する高齢者施設「アクティ フィジオラボ」(代表者:前田伸悟)で実施しました。

以前に高齢者施設で行った調査では、約20%の人しか自身の嗅覚機能の低下に気がついていないという結果が明らかになったことから、まずは嗅覚を意識して行動する「鼻トレ」を促したところ、高齢者の約90%の方で嗅覚に対する意識の変化が見られました。また、一部の高齢者では味覚の主観的な変化も見られたことから、食生活を改善するきっかけにも繋がる可能性があります。この結果を受けて、フィッツコーポレーションでは、香りで様々な社会的解決を行いたいという想いのもと、香りを嗅ぐことによる嗅覚機能の維持・向上をサポートし、高齢者の健康機能の改善や、生活の質の向上を目指してまいります。

※本実証実験は株式会社HILUCO(代表:田代雄斗 – 人間健康科学博士)にご協力いただき実施しております。

  • 取り組み背景

嗅覚は視覚や聴覚と同じように加齢とともに衰えていく感覚機能です(1)。嗅覚の低下は自覚的には分かりづらく、結果的に煙の臭いやガス漏れに気がつかないなどの安全面のリスクが高まってしまったり、嗅覚と密接に結びつく味覚を満足に感じられないことによるQOLの低下、さらには認知機能の低下との関連性も指摘されています(2) (3)。一方で、嗅覚機能は可塑性があるためトレーニングによって改善することが可能とされており、嗅覚トレーニングを通して認知機能が改善する可能性も示唆されています(4)。

前回フィッツコーポレーションで行った実証実験では、高齢者の約20%しか自身の嗅覚機能の低下に気がついていないという結果が明らかになりました。

■前回リリース

高齢者は自分の嗅覚低下に、実は気づかない? 高齢者施設での実証実験結果を発表

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000087.000015815.html

  • 検証概要

実験は埼玉県にあるデイサービス「アクティ フィジオラボ」で行いました。

嗅覚機能に対する意識付けをする「鼻トレ」として、以下の3点を1か月間にわたって実施しました。

・アロマディフューザーを利用した施設内空間での香りの噴霧

・アロマストーンを活用した嗅覚トレーニング

・嗅覚機能に対する意識付けを促すポスター掲出

1か月後に「嗅覚に対する意識の変化」に関してアンケートを用いて調査しました。

■結果

・嗅覚に対する意識について

「鼻トレ」を行なっていた期間に香りを意識していた人は約90%であった

Q.「この1か月間、香りを意識しましたか?」

・味覚に対する意識について

「鼻トレ」を行なっていた期間に味覚の変化を感じた人が約29%いました。

 

Q.「ここ最近で、食事の味わいで気になることはありますか?」

・Aさん

最近感じづらくなった(1)→よく感じられている(3)

室内でも柑橘系の香りがするとスッキリした気持ちになります。

 

・Bさん

前から感じづらい(2)→よく感じられている(3)

金木犀など香りの強いものなど気分が良くなる。

 

・Cさん

最近感じづらくなった(1)→気になることはない(4)

香りに関するコメントはなし。

 

・Dさん

最近感じづらくなった(1)→よく感じられている(3)

今回いただいた香りを何年かぶりに使用しました。なぜか昔を想い少し若返ったようです。たまには良いかも。

  • 考察

今回フィッツコーポレーションが行った「鼻トレ」を通して、高齢者の約90%の方で嗅覚に対する意識の変化が見られました。この結果をもとに、高齢者の嗅覚機能に関する意識や行動の変容に関して考察します。

前回フィッツコーポレーションで行った実証実験では、約20%の人しか自身の嗅覚機能の低下に気がついていないという結果が明らかになりました。

1980年代前半に禁煙の研究から導かれ、その後一般的な理論として定着した行動変容ステージモデルによると、人が行動を変える場合は「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通ると考えます(5)。行動変容のステージをひとつでも先に進むには、その人が今どのステージにいるかを把握し、それぞれのステージに合わせた働きかけが必要になります。

出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html

このモデルを用いて考えると、施設の約80%の方が自身の嗅覚に対して、6か月以内に行動を変えようと思っていない「無関心期」にあると考えられます。行動変容のステージを一つでも先に進むには、その人が今どのステージにいるかを把握し、それぞれのステージに合わせた働きかけが必要になります。

無関心期のステージにいる人々に対しては、以下の2点を満たす働きかけが効果的であるとされています。

①認知的負荷の軽減:関心の低い状態では画一的なトレーニングを負担に感じる可能性があるため、ゲーム形式を取り入れることで、認知的な負担感を減らし、楽しみながら継続的にトレーニングを行うことができるとされています(6)。

②ナッジ理論を用いた環境への働きかけ:環境や状況に小さな変化を加えることで、健康行動を意識的に選択するように促す方法が有効とされています(7)。

そこで今回の実証実験では2点それぞれを満たすアプローチをとりました。

①認知的負荷の軽減

アロマストーンを使った、楽しみながらトレーニングができるゲーム。5種類の香りを付けたアロマストーンを用意し、デイサービス内に設置したアロマディフューザーの香りと、同じ香りを当てるゲームを歓談スペースに設置することで、ゲーム感覚で楽しみながら嗅覚をトレーニングできるよう働きかけました。

②ナッジ理論を用いた環境への働きかけ

施設内でアロマディフューザーによって心地いい香りを噴霧することで、生活する空間で自然と嗅覚を意識するよう働きかけました。加えて、施設内に香りや嗅覚に関する雑学を記載したポスターを掲示することで、嗅覚への意識付けを促進しました。

アンケートの結果、「高齢者の約90%の方で嗅覚機能に対する意識の変化が見られた」ことから、行動変容ステージモデルに基づいたアプローチによって嗅覚に対する意識変容を促進できる可能性が示唆されました。

嗅覚トレーニングによる嗅覚機能の改善は近年報告が増加しており、また嗅覚だけでなく、嗅覚トレーニングを通して認知機能が改善する可能性も示唆されています。他にも煙やガス漏れ、腐った食べ物を感知するなどの個人の危機管理能力の維持・改善や、食事をおいしく食べられることでの生活の質向上も期待されます。

今後の課題としては、嗅覚機能の検査を用いて客観的な指標に改善が見られるのか、結果として認知機能や味覚などの他の機能にどのような変化がみられるのかを把握することが挙げられます。これらを踏まえた行動変容のアプローチを提案することで、香りという嗜好性の高いかつ生活に密着した手段で、健康行動を促せることが期待されます。

フィッツコーポレーションでは、今回の実証実験の結果を受けて、嗅覚機能についての研究を深めていきながら、高齢者の嗅覚低下に関する意識付けを働きかけてまいります。また、日常的に香りを嗅ぐ環境を提供し、嗅覚に関するトレーニングを行うことで、嗅覚機能を通した健康機能の改善や、生活の質の向上の糸口を探っていきます。

実証実験の概要

施設名:アクティフィジオラボ

実施期間:2024年4月29日(月)~5月31日(金)

対象人数:延べ29名

対象者の年齢:62歳~93歳

お問い合わせ先

この取り組みにご関心のある介護業界、医療業界、メディアの皆様からのご連絡をお待ちしております。詳細な情報や実証実験の結果については、以下の連絡先までお問い合わせください。

お問い合わせ先:laaveen@fits-japan.com

  • 会社概要

株式会社フィッツコーポレーション 

フィッツコーポレーションは「豊かさが香るものづくり」を企業理念に、オリジナル香水・化粧品・雑貨等の製造・販売、海外ブランド香水・化粧品の輸入販売、空間向けの業務用アロマディフューザーの販売を行っております。

•設立: 1991年

•代表者: 代表取締役 富樫 康博

•所在地: 東京都港区北青山3-6-1 オーク表参道ビル 7・8F

•ウェブサイト: https://www.fits-japan.com/

株式会社ケアフォレスト 

めまぐるしく進化を遂げる医療業界の中、総合病院での経験を経て地域においても質の高いリハビリを提供したいという想いから、運動療法、運動指導を行うことができる施設を設立しました。

•設立: 2004年

•代表者: 前田伸悟

•実証実験所在地: アクティ上尾(埼玉県上尾市中分1-21-2)、アクティフィジオラボ イオンモール上尾店(埼玉県上尾市愛宕3-8-1)

•ウェブサイト: http://www.acty-dayreha.jp/

参考文献

1.Watanabe, K., Yamaguchi, T., & Kawasaki, T. (1984). Study of microcirculatory disturbance in endotoxin shock using a scanning electron microscope. Microvascular Research, 28(1), 31-42. Retrieved from https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6505700/

2.2. Pence, T. S., Reiter, E. R., DiNardo, L. J., & Costanzo, R. M. (2014). Risk Factors for Hazardous Events in Olfactory-Impaired Patients. JAMA Otolaryngology–Head & Neck Surgery, 140(10), 951-955. https://doi.org/10.1001/jamaoto.2014.1675

3.3. Liang, X., Ding, D., Zhao, Q., Guo, Q., Luo, J., Hong, Z., & the Shanghai Aging Study (SAS). (2016). Association between olfactory identification and cognitive function in community-dwelling elderly: the Shanghai aging study. BMC Neurology, 16, Article 199. https://doi.org/10.1186/s12883-016-0737-4

4.Vance, D. E., Del Bene, V. A., Kamath, V., Frank, J. S., Billings, R., Cho, D. Y., Byun, J. Y., Jacob, A., Anderson, J. N., Visscher, K., Triebel, K., Martin, K. M., Li, W., & Fazeli, P. L. (2024). Does olfactory training improve brain function and cognition? A systematic review. Neuropsychology Review, 34(1), 155–191. https://doi.org/10.1007/s11065-022-09573-0

5.Prochaska, J. O., Redding, C. A., & Evers, K. E. (2008). The transtheoretical model and stages of change. In K. Glanz, B. K. Rimer, & K. Viswanath (Eds.), Health behavior and health education: Theory, research, and practice (4th ed., pp. 97–121). Jossey-Bass. https://psycnet.apa.org/record/2008-17146-005

6.Ramnath, U., Rauch, L., Lambert, E. V., & Kolbe-Alexander, T. (2021). Efficacy of interactive video gaming in older adults with memory complaints: A cluster-randomized exercise intervention. PLoS One, 16(5), e0252016. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0252016

7.Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving decisions about health, wealth, and happiness. Yale University Press. https://www.researchgate.net/publication/235413094_NUDGE_Improving_Decisions_About_Health_Wealth_and_Happiness

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