Craif株式会社のプレスリリース
Craif株式会社(所在地:東京都文京区、CEO:小野瀨 隆一、以下Craif)の技術顧問・共同創業者である安井 隆雄教授(東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系)らの研究チームは、Craif株式会社の市川裕樹CTO、名古屋大学 未来社会創造機構の夏目敦至特任教授、東京大学 大学院工学系研究科の柳田剛教授、北海道大学 電子科学研究所の長島一樹教授、関西大学 商学部の鷲尾隆教授、東京医科大学 医学総合研究所の落谷孝広特任教授、大阪大学 産業科学研究所の川合知二招へい教授、量子科学技術研究開発機構(QST) 量子生命科学研究所の馬場嘉信教授との共同で、「尿中エクソソームのマイクロRNA解析による早期がん検知」を達成したことに関する研究成果が、2024年10月18日付の学術雑誌「Analytical Chemistry」誌に掲載されました。
・尿中のエクソソームのマイクロRNAを機械学習解析し、早期がん検知を達成
・ナノワイヤを用いて尿中に約2000種以上のマイクロRNAが存在することを確認
・脳腫瘍、肺がん、非がんの3分類が可能
■発表のポイント
・尿中エクソソームの網羅的補足を実現
尿中から検出されるマイクロRNAの種類数が少ない原因が、尿中のエクソソームを網羅的に捕まえることができないことが原因であると考え、1次元ナノ材料である“ナノワイヤ”を駆使し、尿中のマイクロRNA種類数が血液中と同程度であることを発見しました。
・2000種類以上の尿中マイクロRNAの発見
マイクロRNAはその機能がヒト機能維持に大きく関与していることから、従来技術(超遠心法)で尿20 mLより発見された300種類程度という数字が尿中マイクロRNA種類数として妥当な数字であると長い間考えられておりましたが、ヒト種として尿中に含まれるマイクロRNA種類数が2,000種以上あることが分かりました。
・機械学習を活用したがん識別アンサンブルの構築
がん患者(100人)と非がん患者(100人)から抽出・解析した尿中マイクロRNAデータを用い、200人の尿中マイクロRNAデータの機械学習解析を行うことで、がん患者と非がん患者を識別可能な尿中マイクロRNAアンサンブルを構築しました。
・尿中マイクロRNAによる高精度の識別を実現
尿中マイクロRNAアンサンブルを用いて、がん患者と非がん患者の尿中マイクロRNAが、がん患者・非がん患者のどちらの尿中マイクロRNAパターンと近しいかを識別できることが分かりました(感度98.2%、特異度96.5%)。
・早期ステージでも高精度に識別
尿中マイクロRNAアンサンブルを用いて、早期がん患者(ステージI)の識別を行なったところ、AUROCが0.987で早期がん患者(ステージI)を識別できました。
・がんの種類で異なるマイクロRNAが発現
がんの種類(肺がん・脳腫瘍)によってもマイクロRNAアンサンブルが異なることが分かりました。これは、各種がんが活動する時の生物学的プロセスが異なっていることと関連しています。
・肺がん・脳腫瘍以外の識別の可能性にも期待
今回の研究では、肺がん・脳腫瘍・非がんの3者の識別だけではなく、肺がん・大腸がん・子宮内膜がん・腎がん・白血病・リンパ腫・膵がん・前立腺がん・胃がん・尿路上皮がん・非がんの11者の識別の可能性も示されました。今後、幅広いがん種でがん早期発見を確かなものとする技術開発が期待されます。
■研究概要
エクソソームは、全ての細胞が放出する微粒子(直径40-200 nm程度)であり、細胞と細胞がコミュニケーションする時の情報伝達物質として体内で機能しています。マイクロRNAはエクソソームによって運ばれる情報であり、がん細胞が放出するエクソソームに含まれるマイクロRNAは体内のがんに関連するサインであると考えられます。今回の研究では、“血液中のエクソソーム全てはコミュニケーションとして用いられずに一部が尿中へ排出される”という仮説を立て、尿中のエクソソームのマイクロRNA解析を実施しました。尿中エクソソームのマイクロRNAを機械学習解析したところ、早期がん患者を識別できることが分かりました。尿中のエクソソームを網羅的に捕まえるため、今回は1次元ナノ構造体のナノワイヤを用いました。次に、捕まえた尿中エクソソームからマイクロRNAを取り出し、がんマーカーとなるようなマイクロRNAの組み合わせ(マイクロRNAアンサンブル)を機械学習解析にて構築したところ、がん患者と非がん患者ではマイクロRNAアンサンブルが異なることを発見しました(感度98.2 %、特異度96.5 %)。さらに、がん患者のマイクロRNAアンサンブルを用いると、AUROCが0.987で早期がん患者を識別できました。
■付記
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)助成金番号JP21he2302007、AMEDムーンショット研究開発プログラム(助成金番号22zf0127004s0902、JP22zf0127009)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)JPNP20004、科学技術振興機構(JST)AIP加速研究(JPMJCR23U1)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)JP24H00792の助成を受けて実施されたものです。
■用語説明
・エクソソーム:全ての細胞が放出する微粒子(直径40-200nm程度)であり、細胞と細胞がコミュニケーションする時の情報伝達物質として体内で機能する物質。
・マイクロRNA:2024年のノーベル生理学・医学賞の受賞につながった物質。マイクロRNAはたんぱく質を作らないRNAであるが、細胞や生体を制御していることが明らかとなっている。がん細胞が放出するエクソソームに含まれるマイクロRNAは体内のがんに関連するサインであると考えられている。
・ナノワイヤ:1次元のナノ構造体。直径が数10-100nm、長さが1-10µmのナノメートルスケールのハリやワイヤーのような構造体。
・マイクロRNAアンサンブル:がんに関連する生命現象には複雑な生物学的プロセスが含まれているため、各種のがん生命現象に関連するマイクロRNAは、1種ではなく複数種のマイクロRNAが組み合わされ、マイクロRNAの組み合わせ(マイクロRNAアンサンブル)となる。
・感度と特異度:感度は疾患を持った人のうちその所見がある人の割合を示し、特異度は疾患を持たない人のうちその所見がない人の割合を示す。感度の計算式は、(真陽性)/(真陽性+偽陰性)となる。また、特異度の計算式は、(真陰性)/(偽陽性+真陰性)となる。
・AUROC:Area Under the Receiver Operating Characteristics Curveの略称。機械学習におけるAUROCとは、主に二値分類に対する評価指標の一つとなる。AUROCは邦訳すると、「ROC(受信者操作特性)曲線の下の面積」を意味する。この指標は、1.0に近いほどモデルの予測性能が高いことを示す。例えば機械学習モデルによる予測が全て正解であった場合、AUROC値は1.0となる。また、AUROC値が0.5の場合は、機械学習モデルによる予測がランダムな推測と同等であることを示す。
■論文情報
掲載誌:Analytical Chemistry
論文タイトル:Early cancer detection via multi-microRNA profiling of urinary exosomes captured by nanowires
著者:Yasui, Takao; Natsume, Atsushi; Yanagida, Takeshi; Nagashima, Kazuki; Washio, Takashi; Ichikawa, Yuki; Chattrairat, Kunanon; Naganawa, Tsuyoshi; Iida, Mikiko; Kitano, Yotaro; Aoki, Kosuke; Mizunuma, Mika; Shimada, Taisuke; Takayama, Kazuya; Ochiya, Takahiro; Kawai, Tomoji; Baba, Yoshinobu
DOI: doi.org/10.1021/acs.analchem.4c02488
■ Craifについて
Craifは、2018年創業の名古屋大学発ベンチャー企業です。尿などの簡単に採取できる体液中から、マイクロRNAをはじめとする病気に関連した生体物質を高い精度で検出する基盤技術「NANO IP®︎(NANO Intelligence Platform)」を有しています。CraifはNANO IP®︎を用いてがんの早期発見や一人ひとりに合わせた医療を実現するための検査の開発に取り組んでいます。
【会社概要】
社名:Craif株式会社(読み:クライフ、英語表記:Craif Inc.)
代表者:代表取締役 小野瀨 隆一
設立:2018年5月
資本金:1億円(2024年3月1日現在)
事業:がん領域を中心とした疾患の早期発見や個別化医療の実現に向けた次世代検査の研究・開発、尿がん検査「マイシグナルシリーズ」の提供
本社:東京都文京区湯島2-25-7 ITP本郷オフィス5F