【セミナーレポート】「世界長寿サミット」が示す、未来の健康長寿を支える新たな可能性とは?注目が集まる「老化速度と腸内細菌」の深い関係

一般社団法人ウェルネス総合研究所のプレスリリース

 一般社団法人ウェルネス総合研究所(代表理事:波多野 誠)は、2025年7月9日(水)に、世界の老化研究の最前線を伝える「世界長寿サミット」メディア向け勉強会を開催いたしました。

 2025年6月に長寿地域で知られる京都府京丹後市で開催された「第一回 世界長寿サミット」では、最新の老化や長寿に関する国内外の研究成果の発表が行われました。

 本勉強会では、世界長寿サミットで発表された老化の最新研究のご報告とともに、老化と腸内環境の関係や、京丹後市で実施されているコホート研究の最新情報を、京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤裕二先生にご紹介いただきました。また、プラチナスポンサーである森永乳業株式会社からは、健康長寿社会を目指すビフィズス菌の役割について研究本部フェロー・阿部文明氏にご講演いただきました。

講演①:第1回世界長寿サミットを終えて~サミット宣言を解説する~/内藤裕二 先生

◆老化は病気として、治療の対象に

 6月16~19日に京都府京丹後市で第一回目の「世界長寿サミット」を開催しました。世界各国から多くの研究者や企業が集まり、様々な老化研究の発表がありました。

 今や老化は「病気」であり、治療も可能ではないかとする考え方が世界的に広まっています。老化の指標としては、かつて9つだった要素が、腸内細菌の乱れや慢性炎症なども加わり、現在では12の要素が挙げられています。老化研究は、ミトコンドリアやテロメアといった単一の要素だけでなく、統合的に解決していく時代になりつつあります。

◆生物学的年齢を測定する時代へ

 老化研究においては近年、「暦年齢」ではなく「生物学的年齢」に注目が集まっています。たとえば50歳という同じ年齢でも、見た目や体の機能が70歳の人もいれば、40歳の人もいるなど、生物学的年齢は異なります。生物学的年齢を測定する方法は、世界でもまだ議論の最中ではありますが、“エピゲノム年齢”は精度の高いものとされており、DNAのメチル化の状態を解析することで、個人の老化の状態が数値化できるとされています。ただし今後、日本人に特化したエピゲノム年齢のデータベース構築が必要であると考えています。世界長寿サミットには、エピゲノム年齢研究の第一人者であるスティーブ・ホーバス教授も来訪し、エピゲノム年齢の問題点や成果についてもお話しされました。

 また、MRIの画像診断によって脳の老化を評価する試みや、プロテオーム解析によって臓器特異的なタンパク質を特定し、臓器別の老化評価を目指す研究も発表されました。血液検査によって老化がわかるものもあり、それらのデータを組み合わせることができれば、何年後かの特定の臓器の不調が予測できるようになるかもしれません。

 老化と腸内細菌についての研究をしている研究者も多いですが、測定の分野では中国や香港が圧倒的に進んでいます。地域別に母親と子供の腸内細菌を分析し、老化との関係を探っている研究者も見られました。

◆京丹後のコホート研究が示す長寿のヒント

 京丹後のコホート研究は、100歳を超える人の割合が全国の3倍という地域住民の健康データを収集し、長寿と生活習慣の関係を明らかにするプロジェクトです。2017年から開始し、現在8年目を迎えています。京丹後市民は全国平均よりも血管年齢が若く、運動習慣が定着しており、腸内に「酪酸産生菌」が多いことがわかっています。この酪酸産生菌は、免疫調整やフレイルの予防に重要な働きを持つと言われており、実際に「菌が少ない人ほど感染症による入院や死亡率が高い」というデータもあります。

 また、高齢になると気になる認知機能に関して京丹後の方々の腸内細菌と認知機能の関係を調べた結果、ビフィズス菌が少ない人ほど認知機能の低下が早い傾向があることもわかりました。

◆第1回世界長寿サミット宣言:4つの柱

 世界長寿サミットでは、最終日に「世界長寿サミット宣言」を発表しました。長寿社会を支えるために以下の4つの要素を掲げ、締めくくりました。

  • Kizuna:絆を育み、コミュニケーションを絶やさないこと。

  • Dietary fiber:植物性たんぱく質や食物繊維の豊富な食事を仲間と共に楽しむこと。

  • Physical activity:規則正しい生活と運動習慣を日々の暮らしに取り入れること。

  • Ikigai:感謝の心を持ち、生きがいを感じる毎日を大切にすること。

 今回の世界長寿サミットでは様々な議論が行われましたが、健康長寿社会を語るうえで見落としてはならない視点として「フラーリッシュ(持続的幸福度)」という概念がありました。たとえ病気を抱えていたとしても、幸せな人生が大事なのではないかという考え方です。日本は長寿国でありながらも、フラーリッシュにおいては22カ国中で最下位であり、長寿の目的も「幸せ」をキーワードにする必要があるのではないかと考えています。

世界長寿サミット宣言の中でも、「Kizuna」「Ikigai」といった幸せにつながるような要素が取り上げられました。

講演②:健康長寿社会を目指すビフィズス菌の役割 /阿部文明氏

長寿社会とその健康リスク―老化も調整ができる時代へ

 日本では高齢化が急速に進行しており、加齢に伴う様々な病気・症状(糖尿病、高血圧、認知症、フレイル、がんなど)が社会課題になっています。また、高齢化は世界的にも進んでおり、特に中国では65歳以上の人口がすでに2億人を超え、2050年には4億人に迫る見込みです。海外の研究者や食品メーカーが日本の高齢化社会への対応策に強い関心を持っていることを、上海での講演経験を交えてご紹介しました。

 今、世界では「Pace of Aging(PoA)=老化の速度」という概念が注目されており、人によって老化のスピードは最大6倍も異なることがコホート研究で報告されています。デンマークの双子の研究では、遺伝子が同じでも環境によって老化速度が異なることが示されました。遺伝だけでなく、生活習慣などが老化の速度に影響を与えていることは明らかで、”老化“も調整ができるような時代に入ってきました。

“老化”にアプローチするビフィズス菌の可能性

 世界中で腸内菌叢の研究が進んでいる中、「12の老化指標」において、ビフィズス菌により改善の可能性がある項目が多く存在し、ビフィズス菌が老化の抑制と深い関係があるのではないかと考えています。

 また、腸内細菌は年齢とともに大きく変化し、特に高齢期においてはビフィズス菌が減少し、逆に悪玉菌が増える傾向があります。近年WHOでは「The first 1000days(最初の1000日)」と、妊娠から2歳の誕生日までの期間がその後の健康に大きな影響を与えることも示しています。酢酸を産生するビフィズス菌が悪玉菌を抑制、腸の活発化、腸管バリアの強化、免疫調節、炎症抑制など、様々な健康効果をもたらすことがわかっており、さらにビフィズス菌は健康な京丹後市民の腸内に多い酪酸産生菌を増やし、酪酸の産生も促してくれるのです。

母乳に選ばれた “ヒト常在性ビフィズス菌”の、加齢性疾患改善への期待

 ビフィズス菌は「ヒト常在性ビフィズス菌(HRB)」と「ヒト非常在性ビフィズス菌(nHRB)」に分類され、HRBは母乳との親和性が高く、母乳により選択的に増殖するのに対し、nHRBは母乳中では生育しないことが明らかになっています。またHRBは、有害物質の前駆体となるインドールを有用な物質であるインドール-3-乳酸(ILA)に変換させることも確認しています。これは動物のビフィズス菌(nHRB)には作ることはできません。このILAには腸内細菌叢の改善はもちろん、脳機能の改善や免疫機能の増強、大腸がん予防、大腸炎に対する効果など様々な可能性が報告され、このILAこそが、ビフィズス菌が産生する酢酸と並んで、健康に寄与する重要な物質であると考えています。

50年以上の研究が支える、ビフィズス菌の“健康長寿”への貢献

 森永乳業は50年以上もビフィズス菌について様々な臨床研究を行っており、高齢者に対する便通改善作用、高齢者のインフルエンザ感染防御などが確認されています。また、脳腸相関に着目し、軽度認知障害(MCI)の方を対象にした試験において、認知機能スコアの顕著な改善を示す結果が得られており、ビフィズス菌は今後、加齢に伴って特に懸念される認知症に対しても、貢献できる可能性があると確信しています。

ビフィズス菌が切り拓く、未来の健康長寿社会

 さらにビフィズス菌は、がん治療を支える抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤)との相乗効果についても、世界的に著名な科学雑誌「サイエンス」に掲載されました。高齢化が進む社会において、ビフィズス菌を活用することで老化の速度を少しでも緩やかにし、実年齢よりも若々しい状態を保ちながら健康を維持していただきたいと考えています。森永乳業でも、こうした可能性を追求するための研究を、今後も継続してまいります。

登壇者紹介

内藤裕二 先生/京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授

1983年京都府立医科大学卒業、2001年米国ルイジアナ州立大学医学部客員教授、09年京都府立医科大学(消化器内科学)准教授などを経て21年から現職。日本酸化ストレス学会副理事長、日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事、2025年大阪・関西万博 大阪パビリオンアドバイザー。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。著書に「消化管(おなか)は泣いています」「健康の土台をつくる腸内細菌の科学」など多数。京都府立医科大学における京丹後コホート研究の腸内細菌叢研究を担当。

阿部文明 氏/森永乳業株式会社 研究本部フェロー

1987年に森永乳業株式会社に入社。主にビフィズス菌、乳酸菌の研究に従事し、ビフィズス菌末の利用技術に関する研究により農学博士号を取得し、国内外で数多くの研究報告を行う。同社機能素材事業部長、食品基盤研究所長、素材応用研究所長、研究本部長を経て現職。特定非営利活動法人・国際生命科学研究機構(ILSI Japan)副理事長、一般社団法人・健康食品産業協議会理事、業界団体「健康と食品懇話会」相談役。

<ウェルネス総合研究所 概要>

人生100年時代を迎えたいま、健康寿命を延ばし、豊かな人生を送ることへの社会的関心はますます高まっています。私たちウェルネス総合研究所は、独自の視点で健康・ウェルネスに関する情報の調査・集積・発信を行ってまいります。​また、人々の健康やQOL向上を助ける食品・医薬品・化粧品・運動などに関わる団体・企業に向けた、コンサルティングを実施し、人々の健康維持・改善を実現する、健康・ウェルネス産業の発展に寄与してまいります。

◆WEBサイト:https://wellness-lab.org/

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