優れた保湿剤を評価する新指標を策定

化粧品技術の最も権威ある国際学会IFSCC Congress 2025 Cannesで発表。化粧品学的評価と分光分析の統合で新たな特性を解明。

株式会社ナリス化粧品のプレスリリース

株式会社ナリス化粧品(本社:大阪市福島区 代表取締役社長:村岡弘義)は、スキンケア製剤の開発にとって基本であり、かつ最も重要と言っても過言ではない保湿剤について、その保水性を詳しく評価する新しい指標を策定し、9月15日~18日にフランスのカンヌで開催された化粧品技術者の国際学会IFSCC Congress 2025 Cannesで発表しました。この指標は、これまでの保湿剤の探索方法よりも人に対する効果が高く、かつ研究にかかる時間や労力などを大きく抑えたものになると考えます。IFSCC Congressは、世界中の化粧品技術者が一堂に会し、最新研究結果を発表・討論する国際的な学術大会です。

■研究の背景

人体が700kg/m3の水を含んでいる一方、その生活空間である大気の含水量は、0.1 kg/ m3以下と過酷な乾燥状態にあります。そのため、保湿によって肌の中で水を必要とする分子に水をとどめ、その構造や機能を保つことが肌の健康にとって重要な鍵です。保湿のために保湿剤配合製剤の塗布が行われてきましたが、これまで保湿剤は、保湿剤そのものの水分保持性や肌に塗布した後の水分量など量的な軸で評価されるのが一般的でした。しかし、そのような方法では物質そのものと水との結びつきが強いことで肌の中の分子に水を与えるという本来の目的が達成できない物質を把握することができず、有用性の有無の判断は実使用でのヒトの肌状態の改善を観察するという労力や費用を要する方法に依存するところが大きいという課題がありました。そこで、新たな評価指標を見つけることを目指し研究を行いました。

■研究内容

 これまでの量的な評価軸では水の蒸発抑制力が高い成分であるほど保湿力が高いと評価されます。しかし、水を引き寄せる力が高いものの中には、肌の水分までも奪ってしまうものもあります。そこで当社では理想の保湿剤とは乾燥環境における肌からの水分の喪失を抑えながら、肌の中の成分が水分を必要とした際には、とどめていた水分を受け渡してくれるものと考えました。

 保湿剤として一般的なグリセリン、1,3‐ブチレングリコール、ソルビトールを比較したところ、グリセリンが最も水分をとどめる効果が高く、その一方で肌のバリア機能を支える酵素の活性を維持する傾向も高いことがわかりました。そこで、水との関わり方を調べるため、水と電磁波を利用した分光学の手法を使って解析を行いました。その結果、グリセリンには水分子の運動に対する束縛が弱いという特徴があることがわかりました。このことは個々の水分子と強く結びついて束縛するのではなく、水分子を包み込むようにしてとどめる物質こそ、理想的な保湿剤になりうることを示唆します。今後は、従来の水の蒸発抑制力のみであった評価軸に水の分子運動への影響という新たな評価軸を加え、両軸からなる保湿剤評価マトリクスを肌への作用に優れた保湿剤の探索に役立てていきます。

■発表タイトル: Toward Moisturizers Beyond Glycerol: Water Attraction and Additional Properties to Consider

(和文) グリセロールより優れた保湿剤を目指して:保水に加えて考慮すべき特性

■発表者:株式会社ナリス化粧品  森田美穂

研究者プロフィール

森田美穂(もりた みほ)

森田美穂:IFSCC Congress 2025 Cannesで撮影

株式会社ナリス化粧品  

取締役 研究開発部 フェロー 

博士(農学)

― 略歴 ―

東京工業大学大学院生命理工学研究科を修了後、株式会社ナリス化粧品に入社。研究開発一筋25年目。研究業務では、主に皮膚の老化改善研究に従事し、製品への技術搭載はもちろん、学会や論文など社外への情報発信にも精力的に取り組んでいる。

プライベートでは一児(小5)の母。

― 職務経歴 ―

2001年: 入社・研究開発部配属。現在まで主にスキンケア技術の開発を坦当。対象は、化粧品・美容機器・ハミガキなど

2014年: リーダー職。 (課長相当)

2017年:日本美容皮膚科学会学術大会にて優秀演題賞受賞。

2018年:シニアリーダー職。(部長相当)

2022年:執行役員。研究開発部フェロー。京都大学博士(農学)。

2025年:取締役。

過去の研究例:リリースタイトル

●肌の水分測定技術の正確性を向上(2023年12月8日)

●たるみ・シワを決定づけるのは角層細胞であると発見(2020年10月21日)

●たるみの原因、重力による皮膚表層の細胞面積の拡大を発見(2018年9月25日)

●青色ダイオード(LED)による育毛作用を発見(2017年8月1日)

●テラヘルツ波を応用、衣服だけでなく化粧品も透過。肌の水分測定可能に(2016年10月12)

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