株式会社ポーラ・オルビスホールディングスのプレスリリース
ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:片桐崇行)は、化粧品を塗布したときの膜を紫外線によって水に強く崩れにくい膜に強化し、角層への浸透促進効果を向上させる「UV応答性膜強化・浸透促進技術」を開発しました。この技術により、日常生活で浴びる紫外線で水に強く崩れにくいUVカット膜を形成し、浸透促進にまで利用するサンスクリーン製品を実現できます。
紫外線を味方につける技術へのあくなき挑戦
太陽光に含まれる紫外線(UV)は、肌に老化を引き起こす原因となるため、紫外線をカットするサンスクリーン製品の使用は、肌を守り、健やかに美しく保つためにとても有効です。ポーラ化成工業ではこれまで、紫外線をカットしながらも太陽光に含まれる他の光を活かすサンスクリーン技術(※1)の開発に積極的に取り組んできました。
本研究においても、多くの方に外出をより楽しんでいただきたいという研究員の想いを原動力に、「紫外線も味方につける」新たな技術を確立しました。
※1 「赤色光を通し、近赤外線をカットする製剤を開発 肌に対する光の作用の違いに着目」(2019年12月4日発行)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20191204_1.pdf
UV応答性化粧膜を追求 pHによって水への溶けやすさが変化する「ホホバ由来脂肪酸カリウム(※2)」に着目
本研究には、自社開発した「UVで空気中の大気汚染物質を分解して酢酸イオンを発生させ、目的の機能を高める化粧膜」の技術(※3)を応用しています。化粧膜中に酢酸が発生すると周辺のpHが弱酸性に変化することから、pHに応じて性質が変わる素材を組み合わせることで、新タイプの「UV応答型」サンスクリーン製品の実現を目指しました。
これに最適な原料として、数ある素材の中から「ホホバ由来脂肪酸カリウム」を選定しました。脂肪酸カリウムは水に溶けやすい性質を持ちますが、弱酸性の環境下では脂肪酸に変化し水をはじくようになります(補足資料1)。これを利用すると、サンスクリーンの塗布により肌上に形成した膜にUVが当たることで脂肪酸が水に強い疎水性の膜となりフタのような役割を果たすことでうるおいを閉じ込める機能を高めることができるのではないかと考えました。
※2 ホホバオイルから得られる保湿力に優れた水溶性成分。 表示成分名: K石けん素地、ホホバアルコール。
※3 「空気中の有害ガスの分解で生じるイオンでサンスクリーン膜を厚く サンスクリーンのUVカット効果を効率よく高め、きしみ感も回避」(2023年3月22日発行)https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20230322.pdf
水に強い疎水性膜のラッピング効果と、ホホバ由来脂肪酸カリウムによるダブルの浸透促進効果(図1)

検証の結果、ホホバ由来脂肪酸カリウムを配合した製剤を開発し、その化粧膜に酢酸を滴下すると、膜を通る水分蒸散量が抑えられることが実際に確認されました(補足資料2)。この結果は、脂肪酸カリウムが脂肪酸に変化したことで膜の閉そく力が高まったことを示唆しています。閉そく力が増すと化粧品中の成分の浸透が促進される「ラッピング効果」が期待できます(図1①)。さらには、ホホバ由来脂肪酸カリウム自体にも浸透促進効果があることから(補足資料3、図1②)、室内でも、紫外線を浴びる屋外でも成分浸透が期待できると考えられます。また、水に強い疎水的な脂肪酸が日焼け止めの膜の表面を強化するので、紫外線からのディフェンス力を高めることが期待できます。
ポーラ化成工業では今後も、お客様のさまざまなシーンをサポートする新技術の開発を行っていきます。
【補足資料1】 ホホバ由来脂肪酸カリウムと酢酸の反応
脂肪酸カリウムは、pHの変化によって水への溶けやすさが変わることが知られています。ここでは、UVを浴びた際に生じる酢酸によるpH変化により化粧膜表面に起こる反応を疑似的に確認する実験を行いました。
ホホバ由来脂肪酸カリウム水溶液に酢酸水溶液を添加し、攪拌すると、白い固形物が形成されます(図2)。これがホホバ由来脂肪酸カリウムと酢酸が反応してできたホホバ由来脂肪酸です。
化粧膜の表面でこの反応が起こると、脂肪酸によって、水に対して強い疎水性の膜へと強化されます。この膜が肌を覆うことで水分の蒸発を防ぐ「閉そく力」が増すと期待されます。

【補足資料2】 ホホバ由来脂肪酸カリウムを配合した製剤の水分蒸散抑制効果
ホホバ由来脂肪酸カリウムを配合した製剤について、酢酸によるpH変化により水分蒸散抑制効果が実際に向上するか評価しました。その結果、酢酸水溶液の添加で水分蒸散量を抑える作用が向上することが確認できました(図3)。酢酸によるpH変化で形成された脂肪酸の膜が水をはじく力を発揮しているものと考えています。

【補足資料3】 ホホバ由来脂肪酸カリウムによる浸透促進効果
ホホバ由来脂肪酸カリウムによる角層への水溶性成分の浸透促進効果を確認しました。三次元培養表皮モデルを用いて、化粧品成分に見立てた水溶性蛍光物質の浸透性を調べた結果、ホホバ由来脂肪酸カリウムにより角層への物質の浸透が促進されることが確認されました(図4)。
この理由として、ホホバ由来脂肪酸カリウムは水になじむ親水的な構造と油になじむ疎水的な構造を併せ持つことが挙げられます。角層は水をはじく疎水性の性質を持っているため、水溶性成分がなじみにくい傾向があります。しかし、ホホバ由来脂肪酸カリウムは、水溶性成分を保持しながらも角層ともよくなじみ、水溶性成分を伴って角層中に入り込むことができると考えられます。


