全薬工業株式会社のプレスリリース
全薬工業は、ご家庭での“正しい除菌行動の啓発”を目的にした情報サイト「除菌ラボ<https://www.zenyaku.co.jp/jyokinlabo/>」を通して、正しい除菌行動のために必要な情報の発信を行っております。
新型コロナウイルスの流行以降、除菌は人々の生活に広く根付いてきています。その中でも良く目にする「アルコール除菌」。消毒に用いるアルコールは、通常、70%のエタノール(エチルアルコール)などが使用されています。エタノールは除菌剤等に含まれる最も一般的な成分です。しかし、このアルコール除菌が効きにくいウイルス・菌の存在について、さらにはそのようなウイルス・菌への対処法などについて次亜塩素酸水溶液研究の専門家である『三重大学 福﨑智司教授』に伺いました。
- アルコール除菌では効きにくい!?「ノンエンベロープウイルス」とは?
ウイルスには「エンベロープウイルス」と「ノンエンベロープウイルス」という構造の異なる2種類が存在します。
エンベロープとは、ウイルスの外側を覆う脂質二重層膜のことであり、ウイルスが感染した宿主細胞の細胞膜に由来するものです。この脂質二重層膜を持つウイルスが「エンベロープウイルス」。膜を持たないウイルスを「ノンエンベロープウイルス」といいます。
エンベロープウイルスには「コロナウイルス」や「インフルエンザウイルス」などがあり、ノンエンベロープウイルスには「ノロウイルス」や「ロタウイルス」などがあります。
エンベロープウイルス_ノンエンベロープウイルス_イラスト
この脂質二重層膜であるエンベロープはアルコールや手洗い石けんによって壊すことが可能です。エンベロープが壊れた状態では、ウイルスは感染力が失われてしまう為(不活化という)、「エンベロープウイルス」にはアルコール除菌が有効です。一方、エンベロープを持たない「ノンエンベロープウイルス」は、ウイルスの表面がタンパク質で構成されたカプシドと呼ばれる外殻で被われており、エンベロープよりもアルコールに強いため、一般的なアルコール除菌が効きにくいとされています。
※ノロウイルスの代替ウイルスであるネコカリシウイルスに対するエタノール系消毒剤の不活化効果が調査された結果、ノロウイルスに対する不活化効果を期待できるものがあるとの報告が国立医薬品食品衛生研究所より発表されています。
- 「ノロウイルス」をはじめとした「ノンエンベロープウイルス」には次亜塩素酸ナトリウムが有効!
一般的なアルコール除菌が効きにくいとされる「ノロウイルス」や「ロタウイルス」をはじめとした「ノンエンベロープウイルス」に対しては、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系除菌剤を用いることが有効です。もちろん、エンベロープウイルスの不活化にも有効です。但し、その塩素濃度によっては危険性もあるため、それぞれの目的・用途にあわせて適切に利用することが重要です。
【次亜塩素酸ナトリウムで「ノロウイルス」を正しく除菌】
ノロウイルスは手指や食品などを介して、経口で感染し、ヒトの腸管で増殖し、おう吐、下痢、腹痛などを起こします。健康な方は軽症で回復しますが、子どもやお年寄りなどでは重症化するケースも。
対策としては、食品の十分な加熱処理はもちろんのこと、次亜塩素酸ナトリウムによる調理台や調理器具の除菌が有効です。調理器具は洗剤などで十分に洗浄したうえで、塩素濃度200ppmの次亜塩素酸ナトリウムで浸すように拭くことで不活化できます。
※厚生労働省ホームページを参考に作成
【次亜塩素酸ナトリウムで「ロタウイルス」を正しく除菌】
主な症状は、水のような下痢、吐き気、嘔吐(おうと)、発熱、腹痛です。乳幼児期(0~6歳ころ)にかかりやすい病気で、5歳までの急性胃腸炎の入院患者のうち、40~50%前後はロタウイルスが原因です。
感染を拡げないようにするためには、オムツの適切な処理、手洗いの徹底などが必要です。また、衣類が便や吐物で汚れたときは、次亜塩素酸ナトリウムでのつけ置き消毒が有効です。
※厚生労働省ホームページを参考に作成
【次亜塩素酸ナトリウムで「アデノウイルス(プール熱)」を正しく除菌】
エンベロープウイルスであるアデノウイルスの感染により、発熱(38~39度)、のどの痛み、結膜炎といった症状を来す、「咽頭結膜熱」といった感染症を引き起こします。
この「咽頭結膜熱」は小児に多い病気で、プールでの接触やタオルの共用により感染することもあるので、プール熱と呼ばれることもあります。
予防・対策としては、手洗いの徹底と、タオルの共有を避けること。感染者が使ったタオルは水洗いした後に次亜塩素酸ナトリウムを使って除菌する方法が有効です。
※厚生労働省ホームページを参考に作成
このように除菌剤の成分によって効果的なウイルス・菌とそうでないものが異なってきます。使用場面や目的に合わせて使い分けることが重要です。目にする機会の多いアルコール除菌剤に加え、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする除菌剤をかしこく併用することが望ましいです。
【「次亜塩素酸ナトリウム」とは】
次亜塩素酸ナトリウムは、衣料や食器の漂白などによく使われている成分ですが、哺乳瓶の消毒やまな板・クロス等の調理器具類の除菌・漂白、野菜の除菌等、食品衛生の分野でも広く使われています。次亜塩素酸ナトリウムの製品には、用途の異なる多くの種類があり、注意点も異なりますので、使用するときには必ず、各製品の添付文書やラベルなどを確認の上、使用場面や目的に合わせて使い分けましょう。
<使用濃度について>
次亜塩素酸ナトリウムは食品など直接口に入れる食材への使用が出来る一方、その濃度によっては、高い漂白効果から肌を傷つけてしまうことも。下記を参考に、正しい使用濃度をチェックしましょう。
・野菜の除菌/100ppm~200ppm
・調理器具の除菌/200ppm
・ノロウイルス対策の環境洗浄/200ppm
・嘔吐物の処理/1,000ppm
※ppmとは
次亜塩素酸ナトリウムの濃度は「ppm」という単位で表示されていることが多いです。「ppm」とは、「%」同様濃度を表す単位で、「%」が100分の1であるのに対して、「ppm」は100万分の1(parts per million)の意味です。
- 監修者プロフィール
福﨑 智司教授
三重大学大学院 生物資源学研究科 教授
福﨑 智司氏
1991年3月 広島大学大学院醗酵工学科博士課程後期修了(工学博士)
4月 岡山県工業技術センター入所、食品技術グループ長、研究開発部長を歴任
2013年 三重大学大学院生物資源学研究科 教授
洗浄・殺菌技術の学術研究を行う傍ら、全国の食品工場において衛生管理の現場指導を実践。科学技術庁長官表彰研究功績者賞(1999年)、日本防菌防黴学会学会賞(2020年)等を受賞。著書に「次亜塩素酸の科学 ―基礎と応用―」(2012, 米田出版)がある。