空気中の有害ガスの分解で生じるイオンでサンスクリーン膜を厚く

株式会社ポーラ・オルビスホールディングスのプレスリリース

ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、社長:釘丸和也)は、使用中の心地よさを確保しつつサンスクリーン製品のUVカット効果を向上させる技術の構築に成功しました。本技術は、空気中の大気汚染成分を分解して得られる成分をうまく利用することで実現しました。

  • 「UVカット機能の維持」と使用時の「心地よさ」はトレードオフ

紫外線(UV)は、日焼けやシミの原因になるだけでなく、生体組織へダメージを与え、シワやたるみなどを促進します。したがって、紫外線をカットするサンスクリーン製品は、肌を健やかに美しく保つためにとても有効です。しかし肌に塗ったサンスクリーン製品の膜は、服などの接触で擦れ落ちたり、汗で流れ落ちたりしてしまいます。膜が取れてしまうと期待する効果が得られなくなるため、化粧品研究では膜を維持するための技術開発が行われています。これまでの研究では、膜を固める手段が主に使われてきました(※1)。しかしこの方法では、膜の硬さがきしみ感などにつながるため、心地よさとの両立が難しいという面がありました。
そこでポーラ化成工業では、多くの方に毎日積極的にサンスクリーン製品をお使いいただきたいという思いから「膜の心地よさ」と「UVカット機能」を両立できる新たな技術の確立を目指しました。

  • 膜の「厚み」に着目 ― 固めず厚くすることで、心地よい感触を犠牲にしない ―

研究員が注目したのは「膜の厚み」でした。これは、光を吸収する物質において、厚みが2倍になると光の減衰率は10倍になるという光の法則(※2)を応用した着想です。つまり、わずかでも膜を厚くするだけで、効率よくUVをカットできるようになるのです。このことから、使っている時に膜を厚くすることができれば、膜が多少取れたとしてもある程度UVカット機能を補えると考えました。この方法であれば膜を固める必要がなく心地よさを損なわずにすみます。

  • 有害ガスの分解生成イオンを利用

我々はこれまでの研究の蓄積から、ある種の粉体が凝集すると膜の厚みが増すことを突き止めていました。なかでも自社で独自開発したUVカット粉体(シリル化シリカの一種)が、溶液中のイオンと反応することで凝集し互いにつながって大きな構造を取るようになること、またこの粉体を含む膜は実際に「イオンと出会うと厚みが増す」ことが分かっていました。つまり、膜にイオンを供給できれば、膜を厚くすることができるのです。そこで、大気汚染ガスであるアセトアルデヒドを分解する自社技術(※3)で酢酸イオンが生じることをうまく利用することとしました。研究の結果、酢酸イオンにより膜の厚みが増し、UVカット効果を維持できるサンスクリーン技術の構築に成功にしました(図1、補足資料)。

【補足資料】

イオンにおける塗布膜の厚みとUVカット効果の変化について


サンスクリーン製剤の試作品について、イオンによる塗布膜の厚みとUVカット効果の変化を実験的に確認しました。

実験では、イオンと出会うことで凝集するUVカット粉体(シリル化シリカの一種で、自社の独自開発品)を配合したサンスクリーン製剤を基板に均一に塗布し、酢酸イオンを含む水溶液(0.5%酢酸水溶液)を霧状にして吹きかけ、その前後の厚みとUVカット効果を計測しました。

その結果、水のみを吹きかけても膜は厚くなりませんでしたが、酢酸イオンを含む水溶液を吹きかけるとわずかに膜が厚くなることが分かりました(図2)。さらに、UVカット効果は、水では変化しませんでしたが、酢酸イオンを含む水溶液では30%ほど上昇することを確認することができました(図3)。以上より、本研究で開発したサンスクリーン製剤は、酢酸イオンにより膜が厚くなりUVカット効果が高まることが確認できました。肌上でアセトアルデヒドが分解されて酢酸イオンが生じると同様の反応が起こることが期待できます。

 

 

※1 ポーラ化成工業では、海水や汗中の塩分を味方につけて膜を強固にすることが出来る技術を確立し、2016年、第29回国際化粧品技術者会連盟(IFSCC) 世界大会にて発表。 演題名: 「Development of new “sea-friendly sunscreens” of which functions were enhanced with seawater」

※2 「光吸収率の対数は膜の厚みに比例する」(ランベルトの法則)

※3 参考リリース: 「ガス状の大気汚染物質を分解する製剤技術を開発 独自の酸化チタンが、炎症をもたらす成分から肌を守る」(2021年5月20日発行)http://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20210520_01.pdf

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